日中の懸案?実は「尖閣」は緊迫していない 警戒すべきは民間活動家の暴発が起こること

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もし仮に活動家の侵入・上陸が成功した場合には、相手国にすれば島への侵略である。国民感情が吹き上がり一気にエスカレーションに至る。

逆に相手国の海上警備組織に阻止された場合は、活動家側の国民感情が吹き上がる。自国領域で実力行使をしたといった反応である。

2012年には、香港、マカオの活動家が上陸し、それに反応した日本の活動家が上陸したことが2度あった。香港活動家等の上陸により日本の国民感情が沸騰し、それを追い風と判断し、あるいは「このままでは政治的埋没する」と恐れた日本の活動家が上陸したものである。もちろん日本活動家の上陸でも、中国と台湾、香港、マカオ各地区の世論は沸騰するといった相互増幅が起きている。

民間活動家の接近を禁止しなければならない

日本の活動家が上陸したことと尖閣国有化の刺激により、台湾活動家も漁船40隻に分乗して尖閣12マイル以内に接近した。台湾企業家の政治アピールが背後にあったと言われている。上陸は海保により阻止されたが、その際の放水が実力行使であると中国人の国民感情を刺激した経緯がある。

実際、尖閣諸島には多くのアホウドリが生息している(Steve Allen / PIXTA)

こうした民間活動家の行動を抑制することが、尖閣問題安定化の課題である。尖閣は自国領域であるといった建前から、両国政府は時刻の民間活動家の侵入上陸そのものを阻止する理屈がない。実際に、日中やその他地区の活動家は居住国で全く罰せられていない。このため、現状は運用によりどうにか行動を制限しているに過ぎない。

今後は民間活動の抑制と、それを対外的に明示するための制度的禁止が必要となるだろう。例えば、漁労に名を借りた政治活動を禁止するため、「水産資源保護のため」といった名目で島から12マイル以内における漁労の禁止、さらに「アホウドリ保護のため」といった名目での上陸禁止といったことができるだろう。

尖閣問題はすでに落ち着きつつある。既に日中政府は現状維持をルールとしている。尖閣での対峙について現状のにらみ合いで安定化させるためには、最も危険な要素である民間活動家の抑制を相互に行うべきである。

文谷 数重 軍事ライター

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もんたに すうちょう / Sucho Montani

1973年埼玉県生まれ。1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。ライターとして『軍事研究』、『丸』等に軍事、技術、歴史といった分野で活動

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