「結婚する気がない男」が"YES"に心変わりした瞬間 外資系・派手めの彼女が見つけた「学究肌」のお相手

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「母が他界して、毎日のように泣いている私をかわいそうに思ってくれたみたいです。『子どもが欲しいと思ったときに遅いと困るから』と隆明さんは言ってくれました」

避妊をやめるとすぐに妊娠。翌年の冬には娘が生まれた。隆明さんは飲食店で鍛えた料理と清掃能力を発揮。キッチンの換気扇などは当たり前のように分解掃除をしている。保育園への送りも隆明さんの担当だ。

隆明さん自身にもいい変化があった。結婚後、大学の研究室から「戻って来ないか」と声をかけられて、純子さんから背中を押されて学者の道を歩み始めたのだ。

「以前は博士号を取っても研究者としての就職先がなく、知り合いに誘ってもらって飲食店チェーンに入ったのです。勉強が大好きな人なので今はうれしそうに論文を書いています。収入は下がりましたが、夫には好きなことをやってほしいです。まだ非常勤なので、次の勤務先の大学が見つからなかったら無理して働かなくてもいいよ、と話しています」

お互いにリスペクトして譲り合える夫婦

母の死後は実家に戻って3人で暮らしている。固定費は光熱費と教育費ぐらいだ。純子さんはフルタイムだけどコロナ禍以降は完全リモート勤務に移行。家族仲さえよければ、隆明さんが一時的に無職になっても問題なく暮らしていける。

「会社員と大学の研究者では働き方も環境もまったく違うので、お互いにリスペクトして譲り合えると感じています。この1年をどうしたい? キャリアのゴールはある?と年明けに話し合いました。彼は論文を5本書きたいそうです。私は仕事でやりたいことはとくにありません」

コミュニケーションにやや不器用なところがある純子さん。とくに男性からは良くも悪くも誤解されがちだった。しかし、隆明さんに対しては「女友だち以上に何でも話せる」と感じている。

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「会社では同僚の話を一方的に聞いちゃうことが多い私ですが、家では自分を出せています。これからもお互いに我慢しすぎないように心がけたいです」

亡き母の話に戻ると、「お母さんって死ぬんだな、と本当にビックリした」と娘のような表情になる純子さん。その目はうるんでいる。

「母のことを思うと、もう少し早く結婚すればよかったと後悔します。せっかく家族が1人増えたのに、1人減っちゃったから……」

母親は孫の顔は見られなかったが、娘は隆明さんと会うことはできた。深く安心して体の力が抜けたのだろう。憂いなくこの世を去ったに違いない。純子さんは十分に親孝行をした。

本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております(ご結婚5年目ぐらいまで)。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。
大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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