社会構造の変化も見据え受信料10%還元を検討へ--松本正之・日本放送協会(NHK)会長

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若い視聴者獲得に向けネット配信が検討課題

--NHKの番組が最近、若年層をターゲットに“民放テレビ化”しているとの声もあります。

視聴者の年齢層を見ると、年齢の高い方は従来と同じく高い率で番組をご覧になっている。一方、若い方、特に20~30代ではその率が低い。若い方が何をNHKに求めているのか。民放と違う公共放送としての役割を果たしながら、どのような番組を提供していけるのか。それを探りながら番組作りをしている。今は視聴者でない方々でも、将来はNHKの視聴者になりうるからだ。

──それ以前の問題として、テレビ離れが進んでいるという調査結果も多くあります。

トータルとして顕著に減っているということはあまりないが、若い層を中心に、インターネットなど、ほかのメディアの影響はあると思う。こうした層に向けても、今はネットによる番組の同時配信はできないが、NHKに何らかの形で接点ができるよう工夫している。たとえば、NHKのホームページでの番組紹介や、テレビでの放送終了後に、番組をもう1回見ようとする方のために、「NHKオンデマンド」で配信している。NHKは視聴率よりも、いかにNHKに接触したかという「接触者率」の概念で考えている。

──番組のネットへの同時配信は実現できないのでしょうか。

法律上、NHKはできない。ラジオについてはやれるようにしてもらいたいと総務大臣に要望し、認可を受けて具体的な手続きに入ったが、テレビは難しい。法律上というだけでなく、ハイビジョンの情報量を配信するハードが整っていないという技術的な問題もある。

ただ、どんどん時代が進化していく中、今のままでいいのかという問題認識はある。テレビについても将来の可能性を含めて検討してもらうべく、総務大臣に要望している(NHKは東日本大震災後にラジオ第1の放送を「NHKオンライン」で初めて同時配信した。テレビ放送も、パソコンやスマートフォンなど向けに動画サイト「ユーストリーム」「ニコニコ生放送」「ギャオ」で視聴できる緊急措置を取った)。

経営委員会とは意思の疎通を図りたい

--現在の経営計画では、2012年度からの受信料収入「10%還元」が盛り込まれています。実現できるのでしょうか。

これはいろいろな経緯があり、次の経営計画の中でどうしていくのかを検討していくことになる。今のデジタル化への移行が完了しないと、デジタル化後の姿も見えない。また、リーマンショックなどを経て、受信料全額免除の方の数もかなり増えている。将来に向かっては少子化など社会構造的な問題もある。さらに別の次元で見ると、放送と通信の融合時代に公共放送がどうあるべきかという問題もある。当然、それは受信料全体の構造問題にも波及する話だ。それはそれで今、調査委員会で検討してもらっており、結論が今年半ばには出るだろう。そういうことも踏まえて、トータルとして10%還元を検討していく。

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