ワーク・エンゲイジメント--組織を元気にする“攻め”のメンタルヘルス対策とは

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 -- ワーク・エンゲイジメントを実現した職場では、バリバリ働くことができ、ストレスもない。個々の心身の健康度と、組織としての生産性やパフォーマンスが両立するわけですね。

 図2が示すとおり、その両立こそが、「職場の活性化」ということだと思いますよ。でも、いまの日本企業に案外多いのは、図の左上の「疲弊予備軍組織」かもしれませんね。全員が働きに働いて、数字は上げているけれど、ストレスフルで胃薬が手放せないという職場(笑)。体育会系のノリで、ワーカホリックの社員も多そうです。ストレスは少ないけれど、活力にも乏しいという沈滞した職場もこれまでにたくさん見てきました。縮小が決まっている事業所や、組織全体の中で存在価値を過小評価されている“縁の下の力持ち”的な部署によく見られる傾向です。こうした職場のワーク・エンゲイジメントを高めるには、トレーニングの機会やパフォーマンスに対する正当な評価といった「仕事の資源」を充実させる対策が必要になってくるでしょう。

<図2:これからの組織活性化>


 -- 社員のワーク・エンゲイジメントを高めて、誰もが活き活きと働くことのできる職場環境をつくるために、人事部門はどのような支援を行っていけばよいのでしょうか。

 正直なところ、人事部門の方は、メンタルヘルスというと医療の問題という先入観があるからか、やや腰が引けてしまうんですね。でも、今回お話ししたようなポジティブな視点、経営寄りの視点を持って取り組めば、果たすべき役割はきわめて大きいと思います。たとえば人事部門でよく行われるマネジメント研修やコーチング研修に、産業保健部門と協調してメンタルヘルスの知見を盛り込むのも有効です。とりわけ現場のキーパーソンであるミドル層の適切なマネジメントは、職場の活性化や部下のパフォーマンス向上に役立つだけでなく、彼らのメンタルヘルスの改善にも効果があることが分かっています。個人の資源と仕事の資源の両者を充実させて、ワーク・エンゲイジメントを実現するためには、人事部門と産業保健部門の積極的なコラボレーションが欠かせません。
(取材は2011年2月17日、東京・文京区の東京大学にて)

《プロフィール》
島津 明人(しまず・あきひと)
1969年、福井県福井市生まれ。早稲田大学第一文学部、同大学院文学研究科卒業後、早稲田大学文学部助手、広島大学大学院教育学研究科専任講師、助教授、ユトレヒト大学社会科学部客員研究員を経て、2007年より現職。
「ワーク・エンゲイジメント」「ストレス対策」「ワーク・ライフ・バランス」をテーマに、企業組織における人々の活性化・メンタルヘルスを研究している。精神保健学、産業保健心理学。共著・単著に『自分でできるストレス・マネジメント』(培風館)、『じょうずなストレス対処のためのトレーニングブック』(法研)等。Eラーニングソフト「いきいき元気アップ」(富士通ソフトウェアテクノロジーズ)監修。
◆この記事は、「日本の人事部」に2011年3月28日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。

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