被災地の金融機関に続々寄せられる被災者の相談 いわき信組は中小企業と個人向けに支援融資商品を用意【震災関連速報】

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 それが同信組が独自に取扱い開始した支援融資商品だ。ひとつは、中小零細事業者向けの「いわしん災害復興資金」融資であり、もうひとつは個人向けの「緊急生活資金」融資。前者は保証協会「激甚災害」制度を利用したものであり、保証協会保証がつくと、貸し付け金利は年2.7%。一方、後者の個人向けローンは原則、配偶者または成人家族一名が保証人という条件で貸し付け金利は年1.0%という低利に設計されている。また、災害で亡くなった方の葬儀費用のための「メモリアルローン」も個人向けに取扱い開始している。

これらのローンをいち早く取り扱い開始したのも「コールセンター業務でお客様の不安、困っていることが何か、把握できたから」と加澤さんは説明する。現に、「メモリアルローン」は、被災後、病状悪化して亡くなった高齢者のケースで利用されたと言う。

今後は、震災復興面で地元金融機関の役割が問われることになる。同信組は本部が小名浜にあるなど、店舗網の一部は海沿いだ。したがって、水産業関連の顧客は少なくない。そうした顧客層への支援が重要となるが、加澤さんの回答は地域を知りぬいた金融機関らしい内容だった。

「水産業者には資金力がある方が多い。むしろ復興のためには建設業への融資が重要だ。建設業者に対しては、やる気、復興への意欲、経営者の人柄の3つを担保に融資していく」

なお、同信組は1日までに一カ店を除く、すべての店が業務再開した。唯一残された楢葉支店は、いわき市よりも北方にある双葉郡楢葉町にある。ここは原発から20キロメートル圏内。業務再開どころか、ここに立ち入ることすら許されていない。

「せめて、同支店に保管している顧客の印鑑簿、債権書類さえ持って来れれば、楢葉の顧客を他の支店で100%カバーできるのだが…」

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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