「政府の役割とは何か」古典派経済学に学ぶ本質 J.S.ミルの思想から考える5つの重要な問題点

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さて、③−1の代表的なものは、言うまでもなく課税です。それは強制的なものです。しかし、近代国家における政府というものは、人びとがその強制を一部受け入れることで、成立していると考えられます。問題は、個人の自由にとって容認できる強制と、そうでない強制を議論することなのでしょう。

③−2については、次のように述べています。

それであるから、民主的政府の場合にも、他のあらゆる政府の場合に劣らず、政府当局者がその干渉を拡大しようとし、持たなくともたやすく済むような種類の権力を握ろうとするあらゆる傾向を、絶え間なく警戒監視することが、重要なことである。このことは、他のいかなる形態の政治社会におけるよりも、民主主義において、おそらくより重要なことであろう。
なぜかといえば、世論が主権者となっているところでは、この主権者によって圧迫される個人は、他の多くの事態におけるのと異なって、彼が救助を求めることができる、あるいは少なくとも同情を求めることができる、対抗的勢力を見いだすことがないからである。(J.S.ミル『経済学原理』(五)293−294ページ)

とても深い議論だと思います。民主主義社会における政府は、いわば多数派によって選ばれた政府ですから、その政府が横暴な圧政者になってしまうと、圧迫される少数者には味方も行き場もない、と言っているのです。

政府と市場のせめぎあい

政府と市場と伝統は、その役割において常にせめぎ合っているイメージをもつべきです。放っておくと、力のバランスが変わってしまい、あるものが他のものを凌駕してしまいます。

政府の役割を考えるときには、政府に任せて終わりではなく、その力のバランスが崩れないよう、常に社会の側が監視していかなければいけないと言っているのです。

③−3については、それは政府の役割が増大することの問題点というよりは、政府がちゃんと組織されていないことの問題だとミルは言います。したがって、政府の組織と組織内の分業、権限の配分を適切に構成することが重要だということになります。

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