埼玉・小川町メガソーラー、事業化困難で大誤算 経産省が大量の認定失効に踏み切った背景

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神谷研究員は土地の雨水浸透能力に着目する理由をこう説明する。「2014年の水循環基本法制定、雨水利用推進法施行により、雨水の流出を抑え、地下浸透を促進することが求められている」。また事業地の大部分は「埼玉県水源地域保全条例」により水源地域に指定され、多くのため池や集落の井戸の水源地にあたるが、神谷研究員は「そこの雨水浸透能力を奪ってしまうのではないか」と指摘する。

資源エネルギー庁の認定失効情報検索サイトによると、さいたま小川町メガソーラーのほかにも埼玉県内で地域住民の反対があるメガソーラーの認定が失効していた。

地域や自治体とのトラブル案件の認定失効続々

埼玉県日高市で、2019年8月に公布・施行された「日高市太陽光発電設備の適正な設置等に関する条例」により太陽光発電事業が禁止された区域内に計画地があったため、事業を進められなくなったメガソーラーも「4月1日以降、認定が無効」となった。

日高市のメガソーラーは「山並みの風景が台無しになる」「土砂災害リスクを増大させる」との理由で住民の反対があった(写真:「高麗本郷メガソーラー問題を考える会」のパンフレットから)

さいたま小川町メガソーラーの事業地近くの炭鉱跡地の丘に計画されているメガソーラー、やはり小川町内の谷津にある棚田に隣接した遠ノ平山に計画されたメガソーラーをめぐっては住民の反対が根強いが、この2件については「2023年4月1日に失効期限日を超過している可能性があり、認定状況を確認中」との表示が出た。

こうした案件に共通するのは、なだらかな丘陵の山林に計画されたこと。大雨の際の土砂崩れの恐れや景観の破壊を挙げ、周辺住民が懸念を強めていた。

西村康稔経済産業相は3月31日、閣議後の記者会見で2022年度末の失効見込み数を「50000件」程度、その容量の総計を「約400万kW」としている。しかし、現時点で全国の失効総数については明らかにしていない。確認作業を進めており、失効が確認されたケースから五月雨式に公表しているとみられる。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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