定まらない花王の戦略、問われるトップの決断力 値上げを掲げる一方でキャンペーン値引きも

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花王の場合、物流や営業といった実質的に卸の役割を担う自社の販売会社を持っているため、ドラッグストアとの値上げ交渉が容易なはず。だが競合メーカーの値上げが進まない中で花王だけが値上げをすれば、顧客が離れるおそれがある。冒頭のPayPayキャンペーンは1カ月単位で年に2回程度行われてきた。ドラッグストアの関係者は「他社に比べてキャンペーンの頻度が高い。シェア低下を恐れて値引きをやめられないのでは」と語る。

花王の商品群
原料の高騰もあり値上げを続々と打ち出している。写真は花王の主力商品群(記者撮影)

そのため、値上げ効果にも疑問の目が向けられる。2022年12月期の実績では、値上げによる増益効果が140億円だった一方、市場伸長予想のズレやキャンペーンなどによる減益影響が100億円となっており、キャンペーンの値引きによる採算改善の遅れが見える。キャンペーンでは、住居用洗剤の「マジックリン」や台所洗剤の「キュキュット」といった、シェアが高くブランドファンが多い商品も一律で値下げしてしまっているからだ。

ドラッグストアの幹部は、「花王はブランド力のあるしっかりとした商品が多いのにもったいない。キャンペーンは需要の先取りに過ぎずマイナス効果だと思う」としたうえで、「競合のドラッグストアも実施しているため、キャンペーンの実施を受けざるをえないが、安売りから抜け出せず、メーカーも小売店も得をしない悪循環だ」と指摘する。

中国のおむつ販売でも苦戦が続く

価格戦略の迷走だけではない。環境変化への対応の遅さも業績に響いている。その筆頭格が、ベビー用の紙おむつ「メリーズ」だ。

メリーズといえば2020年頃、衣料用洗剤「アタック」やハンドソープ「ビオレ」に並び、売上高1000億円規模の花王の稼ぎ頭だった。だが主戦場の中国でECを利用したローカル企業が台頭、消費者のニーズ変化に対応した「超薄型」の商品が人気を博し、花王は苦戦が続いている。

そうした状況下で、ライバルのユニ・チャームはいち早く中国製の高価格帯紙おむつ販売にシフトした。一方、花王は「(メリーズは)これまで当社の成長を支えてきた事業で、抜本的な方針転換が必要だ」(長谷部佳宏社長)と言うものの、いまだ具体的な方策を示せていない。

結果、花王の2022年度のコンシューマープロダクツ(消費者向け)事業全体の売上高は0.2%減(為替影響を除いた実質ベース)と停滞している。

同じくかつては好採算事業であったヘアケア商品も、「ボタニスト」や「アンドハニー」といった新興企業の特徴的なブランド群に対抗できずシェアを奪われている。

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