「指を失くした技能実習生」悲劇を救う"ある存在" 香川県に「モスク」をつくったムスリムは語る

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フィカルさんは、その話を聞いて憤怒した。

「指が切れたのに30万円しか払わんで、面倒やから帰らせるとか、ありえん。おかしいやん」

フィカルさんはすぐに労働基準監督署を訪れ、その会社を訴えようとハサンくんに提案した。しかし「同僚のインドネシア人がやめさせられたら困るから行きたくない」とハサンくんは言う。フィカルさんはこう言った。

「そんな30万円ぽっちで、指を無くしてええんか。それにみんなやめさせられることはないわ。そんなことが起きたら、私が責任取って、裁判でもなんでも起こすって」

それでも、ハサンくんは「問題にしたくない。行きたくない。国に帰りたい」と訴え続けた。

一体その職場はどんな環境だったのだろうか。人のいいインドネシア人たちを、その社長はどのように脅していたのだろうか。フィカルさんは意気地のないハサンくんにも腹が立ってきた。

「そんなんやったら、もう私の家からでていけ! 言うてしまった」

彼は泣き出してしまった。フィカルさんはすぐ熱くなる自分に反省し、説得を続けた。このまま泣き寝入りすれば、もしまた同じような事故がだれかに起きたとしても、うやむやにされ、少額をつかまされて帰国させられる。それが続けば、技能実習生はさらに軽視され、これよりもひどい事故が起きる可能性もある。その説得に彼も納得し、労働基準監督署を訪れることにした。

示談金200万円で解決した

しかし労働基準監督署の職員が放った一言は、信じられないものだった。「慰謝料をもらっているから、いいじゃないですか?」と言ったのだ。

フィカルさんは、感情的になった。「国に帰っても障がいがあるから仕事ができるかわからんのに、30万円だけじゃダメやろ! 指が切れてるんや!どうにかしてもらわないかん! 弁護士を出してください!」その迫力に押された職員は、ようやく提携している弁護士を呼んでくれたのだが、運よくその弁護士は親切な人で親身に相談にのってくれた。

「相手の社長からこの書類にサインをもらってきてほしい。そうすれば、私たちも協力できる。もし先方がサインを断っても、それを理由に弁護士は動けるから」

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