人民元はIMFのSDRに採用されるのか 国際化する人民元、「ドルへの挑戦」へ前進

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人民元が各国政府や中央銀行に保有されていないのではなくて、各国は外貨資産としてある程度保有しているものの、世界の外貨準備残高の通貨構成の半分近くを占めている「不明」の中に含まれているか、そもそもIMFが発表している外貨準備残高の中に入っていないという可能性が高いと筆者は見ている。

これまでのルールでは、人民元がSDRのバスケットの中に入るということは、自由に取引できる通貨だと認められることと同義だ。人民元が突然外貨準備通貨として認められることになり、IMFが発表している外貨準備の通貨別構成の中で大きな比率を占めていることが分かる、という可能性もあるだろう。

SDRに採用されることで重要性がより高まる

中国との間の貿易がさらに増えて行けば、自国通貨と元との間の為替レートの変化が輸出入を通じて、各国の経済に与える影響が大きくなって行く。中国との経済的な結びつきが強い国では、自国通貨を米ドルに連動させるよりも人民元に連動させることのほうが重要性を増すことになる。政府や中央銀行が為替市場に介入するために、人民元を外貨準備として保有する必要性がもっと高まるはずだ。

3月にアメリカ、カナダの専門家と意見交換した際には、ほとんどの人が人民元が主要国際通貨になるのはかなり先の話だとみていた。貿易取引で元の利用は拡大するものの、国際金融取引におけるドルの地位は揺るがないと考えていた。しかし、人民元がSDRの通貨バスケットに採用されると、それをきっかけに新興国や発展途上国を中心に金融機関の行動が変わっていく可能性が高いのではないだろうか。

アメリカはIMFで事実上の拒否権を持っており、人民元をSDRのバスケットに入れることを阻止することは不可能ではない。最近注目を集めているAIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立の背景には、IMFの議決権を新興国や発展途上国により多く分配するというガバナンス改革が、アメリカの反対で進まないこともある。SDRに人民元が採用されるかどうかは、現在のIMFを中心とした、アメリカのドルを用いる国際通貨体制の将来にも大きな影響を及ぼす。SDRの見直しはどう決着するのか。行方からは目が離せない。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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