日銀が買う国債は、誰が責任を負うのか 異次元緩和の「都市伝説」のカラクリ

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インフレになると(それはハイパーインフレでなくとも)、プラスの金利となるので、民間の経済主体は通貨でなく利息等が得られる金融資産を持とうとし、その中で国債は日銀ではなく民間が保有するようになる。民間の経済主体が保有する国債は、満期が来ると元本を(全額でなくとも一部は)返済しなければならず、そのために国民の税負担が生じる。

インフレ甘受なら、結局「インフレ税」で負担することに

したがって、かつて日銀が買い入れた国債といえども、デフレが止まると、民間が保有することになって償還のための税負担が生じることになる。異次元緩和政策の狙いと、その狙い通りになった後のことを考えれば、自明のことである。デフレが止まっても、日銀が買い入れた国債の返済のための税負担が生じない、などということはありえない。

では、日銀は買い入れた国債を売りオペしなければよいのだろうか。そうすれば、インフレ下で、民間が保有する通貨が市中に過剰に残るため、高率のインフレになる圧力がかかることになる。そうなれば、やはり日銀は、物価の安定のために売りオペをして市中の通貨を吸収せざるを得なくなる。

多少高率のインフレを甘受すれば、日銀は異次元緩和政策で買い入れた国債を売らずに済むとみるなら、今度はインフレによる国債の価値の目減りに直面する。確かに、国債の返済負担が、インフレによって実質的に軽くなっているかのように見えるが、その裏表の関係で生じているのは、国民や日本円保有者に対する「インフレ税」の徴収である。

「インフレ税」は、東洋経済オンラインでの本連載の拙稿「経済財政諮問会議の『ゆるい議論』を許すな」(2015年2月23日)でも触れた。日本円を持つ者はインフレによってその通貨価値が奪われ、それと同時に日本国債の実質返済負担が軽くなる。この場合でも、誰かが日本国債の返済負担を負わされることには変わりない。

デフレ脱却は目指すべきである。しかし、デフレ脱却後のことも考えれば、これまでに負った日本国債の返済負担から逃れられないことを肝に銘じなければならない。だからこそ、日本国債の残高の増加は抑えなければならないのである。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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