北越紀州と三菱製紙、またも"破談"の裏側 製紙「第三極」は三すくみで先行き混迷

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そうした中で、一部メディアでは、今回の“破談”の背景に、業界4位の大王製紙と5位の北越紀州との間で、6位の三菱製紙の争奪戦があったとも報じている。ただ、大王側では、「(第三極結集に向けて)いろいろな可能性をつねに検討しているが、報じられているような昨年の段階で三菱製紙との統合協議を進めていた事実はない」と否定する。

株式市場は販社統合破談を歓迎?

冷静に考えれば、製紙業界の縮小が続く中で、三菱製紙が売上規模では業界6位ながら、「“花嫁”として取り合うほど、本当に魅力的なのか」との声も北越紀州からは漏れてくる。

2014年3月期の営業利益をみると、大王の160億円、北越紀州の33億円に対し、三菱製紙はわずか4億円。これは業界7位・中越パルプの30億円や8位の特種東海製紙の31億円をも下回る。しかも15年3月期の最終損益は特別損失がかさみ、25億円の赤字が見込まれている。

こうした評価は株式の時価総額にも表れている。直近では大王の約1600億円、北越紀州の約1300億円に比べて、三菱製紙の時価総額は約300億円とケタが違う小ささ。売上規模では三菱製紙の半分以下に過ぎない中越パルプの約280億円とほぼ同規模で、特種東海製紙の約450億円を大きく下回る。事実、三菱製紙との販社統合破談が明らかになった4月1日以降、それまで軟調だった北越紀州の株価は連日の値上がりでハネ上がった。株式市場が北越紀州に対し、三菱製紙との統合を求めていないのは目先では明らかだ。

また、大王が三菱製紙との経営統合を望むのは、「北越紀州の持ち株(発行済み株式数の2割強)を希薄化させて、同社の持分法適用会社から外れるため」との見方もある。しかし、どうせ経営統合を図るなら、すでに業務・資本提携を結び、家庭紙のOEM供給を受けるなど親密関係にある特種東海製紙を相手にしたほうが、時価総額も大きいだけに、北越紀州の持ち株比率を希薄化させる効果は大きいはずだ。

市場が縮小する中での生き残りに向けて、第三極の形成は喫緊の課題だが、その有力候補となりうる4位の大王、5位の北越紀州、6位の三菱製紙はまさに次の一手を打ち出しにくい三すくみの状況といえる。王子、日本製紙という業界2強に対する対抗軸が見えるには、まだ時間が掛かりそうだ。
 

大滝 俊一 東洋経済 記者

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おおたき しゅんいち / Shunichi Otaki

ここ数年はレジャー、スポーツ、紙パルプ、食品、新興市場銘柄などを担当。長野県長野高校、慶応大学法学部卒業。1987年東洋経済新報社入社。リーマンショック時に『株価四季報』編集長、東日本大震災時に『週刊東洋経済』編集長を務め、新「東洋経済オンライン」発足時は企業記事の編集・配信に従事。2017年4月に総務局へ異動し、四半世紀ぶりに記者・編集者としての仕事から解放された

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