松山ケンイチ「1年の半分は田舎生活」で得た学び 憧れの俳優は「木村拓哉」意外な松ケンの一面も

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――『ロストケア』では、自分なりの思想と正義で42人を殺める介護士・斯波(しば)役を演じました。一面にしてもその人になることはハードな仕事ではありませんでしたか?

誰もが社会の一般的な常識のなかで生きていますが、斯波はその常識が通用しない、法律では守ることができない世界を目の当たりにして、経験してきた人。その世界を検事に対して淡々と話している。そういう物語です。

僕自身は斯波のような親子の介護をまだ経験していなくて。劇中のセリフで「安全地帯にいる人間」と「穴に落ちた人間」が出てきますけど、僕は前者なんです。だから、どうすれば僕とは違うものを持つ斯波の言葉に説得力を持たせることができるかをすごく考えさせられました。

そこで思ったのは、斯波が快楽殺人者やサイコパスだと見られてしまってはいけないということ。斯波と検事の激論が、日本の将来の話をしているように僕には感じられたんです。

あまりにも雄弁に語ればサイコパスみたいになってしまう。そうお客様に捉えられてしまうのは避けたいと思いました。感情を抑えた斯波の思考の伝え方は、佇まいも含めて考え抜いてたどり着きました。

松山ケンイチ(撮影:今井康一)

見たくないものは見ない社会に一石を投じる

――根底にあるのは身近にある社会問題なのに、多くの人は気づいていない。そこにエンターテインメントとして光をあてる社会性のある作品です。

僕自身も知らない世界でした。誰でも見たいものと見たくないものがあって、後者は見なくていいとなる。それで生活は成り立っているから。劇中で描かれる介護の問題に限らず、病気やケガ、死ぬこともそうです。誰もが人生において必ず通る道であるにもかかわらず、そこにフタをするんです。日々の生活に忙しくて余裕がないというのも理由の1つかもしれません。

――そういう人たちに斯波なりの思想と正義はどう伝わるでしょうか。私にはヒース・レジャーやホアキン・フェニックスが演じたジョーカーと斯波が重なりました。

基本的に誰でも自分が正しいと思うことをするじゃないですか。ただ、その正しさは自分ではジャッジすることができない。だから衝突や別れがあったり、いろいろな事件がそれをきっかけに生まれてくる可能性もありますよね。でも、誰かの正しさに合わせて生きられるほど器用でもない。それが難しいところだと思います。

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