推薦入試で"青田買い"に走る私大定員割れの深刻 早く確実な合格という大人の都合が学力を削ぐ

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入学した学生が定員を割るということは、単に大学の評判を落とすだけでなく、大学の経営にも授業運営にも深刻な影響を及ぼしかねない。さらに文科省は、学生数が定員の8割未満の大学に対しては、低所得家庭の学生を対象とした授業料免除や給付型奨学金の支給などを支援する「修学支援制度」の対象外とするとしている。

つまり受験生に人気がなくて定員を大きく割る大学は、授業料収入などが減るだけでなく、文科省の支援制度の適用外になり見放されてしまうのである。

そんなことになると、大学として生き残っていくことはほとんど不可能になってしまう。そこで多くの大学が力を入れているのが、入学者を早めに確保できるいわゆる推薦入試の活用だ。

推薦入試には総合型選抜(AO入試)と学校推薦型選抜の2つがあり、いずれも主に9月から12月の間に実施される。入試シーズンといえば寒い2月のイメージがあるが、それに先立っていち早く合格者を決めてしまう制度だ。

大学も、受験生も、親も高校もハッピー

総合型選抜は、書類審査や小論文、面接などを組み合わせて合否を判定する。学校推薦型は、出身高校の校長の推薦を受けて高校が作成する調査書(定期試験の成績などが記されている)などをもとに判定する。いずれもいわゆる学力を試す試験が行われないケースが多い。

総合型選抜は受験生が自由に応募できるため、不合格者が出る可能性がある。これに対し、学校推薦型の中で最も多い「指定校推薦」方式は、大学側が各高校に学科単位で1〜2名の推薦枠を提示し、高校側は推薦対象者を選ぶ。選ばれた受験生はほぼ100%合格する。合格した後で受験生が入学を辞退すると翌年からその高校の推薦枠が取り消される恐れがあるため、合格者の大半が入学する仕組みとなっている。

驚くのは、この2つの方式の推薦入試が今や大学入試の主流となっていることだ。

一昔前まで推薦入試は例外的で、大半は複数の科目の試験問題が課される一般選抜だった。しかし、2010年代に入ると私立大学の入学者の50%以上が推薦入試での合格者となった。2022年には57.4%にまで増えている。

つまり私立大学の合格者の6割近くが、一般選抜の入試ではなく推薦入試で入学しているのだ。

推薦入試がここまで広がったのには理由がある。

受験生の父母や高校側にとっては受験生を高い確率で合格させることができる。大学側にとっては早めに新入生を確保できる。そして受験生にとっては受験シーズンまで延々と試験勉強に苦しむまでもなく早々と3年生の秋に進路が決まってしまう。関係者全員にとってありがたい制度なのだ。

予備校関係者は「高校、保護者、受験生の安定志向が強まっていることと、大学側の入学者確保のニーズが強まっているため、推薦入試は私立大学の主流になり今後も増えていくだろう」と分析している。知識偏重の詰め込み型の受験勉強に否定的な文科省も、推薦入試を受験生の「能力、意欲、適性などを多面的、総合的に判定できる」として肯定的に捉えているようだ。

しかし、推薦入試偏重には疑問を持たざるを得ない。

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