日米の孤立を演出、中国「AIIB」の高笑い 中国のインフラ投資構想が多くの国々を魅了

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これはアジア諸国だけでなく、欧州など域外国にとっても魅力的な提案だった。中国はAIIB構想に先立って「一帯一路」と名付けたインフラ整備ビジョンをブチ上げている。陸からユーラシアを抜ける「シルクロード経済ベルト(帯)」と、インド洋から地中海に至る「21世紀海上シルクロード(路)」で、欧州とつながる構想だ。これをAIIBに加え、14年末に発足したシルクロード基金が金融面で支える仕組みだ。

中国にとってこの構想は、経済協力を通じ周辺国との関係を安定させるという、外交面での意味合いが大きい。領土紛争を抱えるベトナムやフィリピンもAIIBに取り込めたのがその象徴だ。経済面でもメリットは多い。最も大きいのは、国内の過剰生産能力を、国外のインフラ整備に振り向けられること。また、投融資を通じて人民元の国際化を進められる期待もある。

いずれ日米も合流へ?

3月28日に中国政府は「一帯一路」のビジョンを発表。習主席は「60を超える国と国際組織が『一帯一路』建設に積極的な姿勢を示している」と自信を見せた。

AIIB参加を表明した国には、インフラビジネスに自国企業を関与させる狙いがある。中国主導のプロジェクトを通じて人民元経済圏が徐々に拡大しそう。米国の“制止”を振り切って欧州諸国が参加する流れを作ったのは英国だが、そこには「ロンドンを香港と並ぶ人民元のオフショア市場にしたいという狙いがある」と、東短リサーチの加藤出社長は見る。AIIBがロンドンで起債することも視野にありそうだ。

3月30日には米国のジェイコブ・ルー財務長官が訪中し李克強首相と会談。ルー長官はAIIBのガバナンスについて注文をつけたものの、帰国後には「高いスタンダードを目指す中国指導部の姿勢に勇気づけられた」と言明。微妙に姿勢を変えてきた。

インフラ輸出は安倍政権の看板政策の一つでもあるだけに、日本の経済界からも不参加によってビジネスが不利になることを懸念する声が出ている。遠からず、「ガバナンスの改善が見られた」ことを名目に、日米も合流に傾く日が来るかもしれない。

「週刊東洋経済」2015年4月11日号<6日発売>「核心リポート04」を転載)

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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