東日本大震災による金融機関、事業法人の格付けへの影響は限定的《ムーディーズの業界分析》

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地方銀行
 被害の大きかった3県を中心に営業、貸し出しをしている8つの地銀・第二地銀の損害は甚大となるとみられるが、この8つの金融機関はムーディーズによって格付けされていない。被災の中心部に隣接する地域で営業する他の地銀についても見直しを行ったところ、このような地域で主要な営業をしている常陽銀行(預金格付けA1/Prime1、銀行財務格付けC-、格付けの見通しは安定的)がある。

常陽銀行の総貸出額の8~9%を宮城県、福島県、(被災の規模は小さいが)栃木県が占めている。なお、同行のTie1(中核的自己)資本額3800億円強に対して、上記3県向けの総貸出額は4600億円程度であり、そのコア業務純益額は400億円強の水準である。

現時点での限定的な情報で判断するかぎり、今回の地震に関連して発生しうる損失額は、同行のコア業務純益額および自己資本(Tier1比率は12%程度)で十分にカバーできるとみられる。今後、追加的な情報が判明し、万が一、本件にかかる与信費用の水準が同行の年間コア業務純益額に匹敵するようなレベル(400億~500億円程度)に近づく場合には、その格付けについて再検討をすることになろう。

輸送機関
 鉄道業者である東日本旅客鉄道(JR東日本:格付けAa1、格付けの見通しは安定的)、道路および高速道路事業者である東日本高速道路(NEXCO東日本:Aa2、格付けの見通しはネガティブ)、日本高速道路保有・債務返済機構(高速道路機構:Aa2、格付けの見通しはネガティブ)も被災中心地において重要な営業をしており、相当な影響や被害が生じていると考えられる。

たとえば、JR東日本の被災した地域における収入は、全体のおおむねの1割程度を占める、とムーディーズはみているが、当地域において営業が完全に再開できる時期についてはメドが立っていない。

NEXCO東日本は東日本において3575キロメートルの高速道路を管理しており、高速道路機構は有料道路を保有し、6つの政府所有の地方道路の貸付料をもって債務弁済に充てている。両社とも独立行政法人であるため、ムーディーズはその信用力は日本政府の信用力にリンクしていると見なしている。

上記の3社以外の鉄道業者や高速道路業者は、被災中心地では営業していないため、特段大きな影響は受けておらず、経済損失は比較的小幅にとどまるであろう。

写真:防衛省動画より
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