「本田翼の演技は下手ではない」と言える真の評価 普通なのに埋没しない、稀有な魅力を持つ女優

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(以下、ネタバレになります)

2月25日放送の第7回で、もうひとりの父が現れる。これまで会話していた父は星太郎が勝手に作り上げた幻想の父だった。

亡くなった人が忘れられない思いは誰にもあるが、それがいつの間にか、本人の実像とは違うものになっているということは、なきにしもあらず。いいことだけを膨らませ、見たくないことに蓋をしてしまうことはある。思い出が都合よく書き換えられてしまうことが。

思い出は消えないが、これ以上増えることはなく、時間とともに変容していくことこそ、死、あるいは死別なのだと突きつけられて、土曜の夜のやさしくおもしろいファンタジードラマが、一気に苦い現実となって驚いた。

ヒロインの役割を的確に演じている

橋部敦子は草彅剛主演で大ヒットした『僕の生きる道』(2003年、フジテレビ系)で注目され、三浦春馬が熱望して主演した『僕のいた時間』(2014年、フジテレビ系)、高橋一生主演の『僕らは奇跡でできている』(2018年、フジテレビ系)など秀作を生み出し、『モコミ〜彼女ちょっとヘンだけど〜』(2021年、テレビ朝日系)では向田邦子賞を受賞している。

繊細な心もようを丁寧に描き、生きるというテーマに積み重ねを感じる橋部作に、たとえどんなに現実がつらくとも、生き残った者はその現実を超えて生きていかなくてはならないのだと思い知らされたとき(最終回を見ないと実際のところはわからないが)、本田翼の存在が光っていた。

橋爪功と高橋一生が、ベテラン名優と中堅名優、その最高峰の共演という、ゴジラ対モスラ的な、実に素晴らしい芝居を見せるなか、本田はヒロインの役割を的確に演じている。『6秒間の軌跡』は、本田の存在をこれ以上ないほどうまく物語に生かしている。

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