「壁全面張り替え請求」原状回復トラブル悪質実態 「特約」にハウスクリーニングを入れている例も

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原状回復のトラブルは、筆者の例のようにかなり以前から多く発生していた。国土交通省(旧建設省)が初めて「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を作成したのが1998年のこと。「経年変化」や「通常損耗」と次の借主のためのグレードアップに要する費用は貸主負担、善管注意義務違反や故意・過失の部分は借主負担という原則が打ち出された。ガイドラインは以降、裁判の判例などを反映して、改訂、再改訂などを繰り返して現在に至っている。

では、借主が負担すべき原状回復とは、どこまでの範囲なのか。ガイドラインには、借主の故意・過失によって賃貸住宅に生じたキズや汚れ(損傷)、借主が通常の使用方法とはいえないような使い方をしたことで生じた損傷などを元に戻すこととある。

具体例を挙げると、壁の落書きなどはもちろん、雨が吹き込んで床のフローリングが色落ちをしたり、引っ越しの際にぶつけてキズができたりした場合は、借主が費用を負担するものとなる。

ほかにも、ヘビースモーカーで壁紙などにヤニの臭いや変色などが生じた場合、ペットが柱や壁にキズを付けた場合、エアコンからの水漏れを放置したため壁にカビが生じた場合など、適切に賃貸住宅を使用していれば防げた損傷などは借主の負担範囲としている。

賃貸住宅では、壁にくぎを打ってはいけないというイメージがあるが、ガイドラインの線引きによると、画びょうでポスターを壁に貼るなどは、通常の生活で起こる範囲。エアコンを設置するために壁にビスを打つのも同様だ。ただし、テレビなど重いものを掛けるために壁にネジ穴を空け、退去後に下地ボードから修復が必要になった場合などは、原状回復の対象とされる。

トラブルになるのは貸主負担分まで請求されるから?

請求の内容や請求額に納得がいかないことでトラブルになるのだが、貸主が負担する分まで借主に請求されることが要因の一つだ。時間が経てば建物や設備は劣化・損耗する(経年変化)し、普通に生活していても一定の損耗はある(通常損耗)ので、本来は貸主が負担する範囲だ。

例えば、家具を設置した跡や冷蔵庫の裏側の壁の黒ずみ(電気ヤケ)などは、普通に生活して生じるもので、原状回復の対象にはならないというのが基本的な考え方だ。ガイドラインを把握しておけば、退去時の原状回復について交渉材料になるだろう。

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