日銀の「岸田リスク」は消えていないかもしれない 植田日銀で為替は「1ドル=120円」に向かう

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他方、「前期黒田時代」の副総裁を務めた岩田氏は、消費税率引き上げが物価上昇の足を引っ張ったとして、本来「第2の矢」として金融緩和を後押しすべきだった財政政策の逆噴射を批判する。

加えて、不幸にも現実はその実験をすることになってしまったのだが、金融政策「だけ」で目標が十分達成できると言っているわけではないとの立場を説明してもいる。「もう限界という地点まで金融政策を行ってきた。これからは財政の役割だ」とも述べている。

なお、本論から逸れるが、岩田氏については、2021年に上梓された『資本主義経済の未来』(夕日書房)がめっぽう面白いことを付記しておく。例えば、斎藤幸平氏が唱える脱成長コミュニズムを真正面から批判している。それにしても、できたての小出版社(最近、編集者が独立するケースが複数見られる)が、いきなり本書のような512ページにもわたる大部の書籍で勝負したのには畏れ入る。

やはり問題は財政だった

さて、おそらくは極度の不仲と思しき翁、岩田両氏の発言をつなぎ合わせると、流動性の罠があるのだから、(とくに金利がゼロまで低下したあとは)財政政策によって景気の浮揚と共に物価目標の達成を目指すべきだった、という常識的な結論が得られる。

これは、サムエルソンの『経済学』が経済学部初年の定番のテキストだった時代から(50年くらい前から)、普通にわかっていた程度の話だ。問題は財政だったのだ。そして、今後も再び同様の問題が浮上する可能性が小さくない。

リフレ派の岩田前副総裁にとって不運だったのは、リフレ政策が量的緩和と同時に「期待に働きかける」政策でもあったことだろう。世間の期待(=予想)に与える影響を考えると、日銀は「金融緩和だけでは十分なインフレにすることはできない」とは言えなかったのだ。

しかし、岩田氏ほどのサムライ(!)が、副総裁在任中に財務省に向かって批判の刀を抜かなかったのは大変残念なことだった。日銀という「殿中」には、財務省に刃向かえないとする暗黙の作法が存在するのだろうか。

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