パナが500億投資で狙う「省エネ暖房」の巨大市場 爆売れ「ヒートポンプ」でダイキンを抜けるか

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――自然冷媒とは、何が自然なのですか。

温室効果ガスを生まない冷媒ということだ。今回は、プロパンガスを冷媒に使用している。

プロパンを冷媒に使う場合、燃えやすいため扱いが難しいのがデメリット。製造時のインフラにも従来以上に神経を使う。コストは一段と上がるが、これを使うことで従来の冷媒を使った製品と比べて温暖化への影響は何百分の1のレベルまで下げられる。長い目では絶対に外せないトレンドだ。

道浦正治(みちうら・まさはる)/パナソニック株式会社空質空調社 社長。1985年、松下電工(当時)入社。2017年にライティング事業部長、2019年にライフソリューションズ社社長。パナソニックのフットボール実業団チームであるインパルスで主将を務めた経験もある(撮影:梅谷秀司)

当社では、何かあっても大きな被害が及ばないようにするための保護機能を設けるなど、安全性の確保について時間をかけて開発を続けてきた。ここに技術的なブレイクスルーがある。

製品としての品質をいかに担保するかも慎重に検証した。今ではプロパンでも従来の冷媒と同等のエネルギー効率を期待できる。こうした開発には、基礎研究の時代から数えて10年はかかっている。その結果、自信をもってお届けできることがわかったので、今年上市するに至った。

さらに、「空質」でも差別化していく。

――聞き慣れない言葉です。

単に空気を暖めるのではなく、どういう質の空気を室内に届けるかをプラスして訴求していく。今のところ、ヨーロッパのメーカーはこの領域への関心が高くない。

わかりやすい例でいえば、湿度のコントロール。ヨーロッパの人は乾燥した空気に慣れていて、加湿器を置く習慣はない。ただ実際は、湿度を上げれば暖房の設定温度を上げなくとも暖かく感じる。さらに、空気中の菌・ウイルスなどの抑制効果を発揮する「ナノイー」の技術も持っている。こうした付加価値を市場が受け入れてくれるようになれば、狙える市場はさらに大きくなるだろう。

新型コロナウイルスの流行を経て、土壌は整ってきている。空気清浄機などがだんだん使われるようになってきているからだ。こうしたチャンスを活かしながら、啓蒙し続けることが大事。

――昨年11月、スウェーデンの空調機器メーカー、システムエア社の業務用空調部門の買収を発表しました。現在のヒートポンプ式暖房市場は家庭用が中心ですが、BtoBでの展開も視野に入れているのでしょうか。

なんとか、チャレンジしていきたい。

当社では、住宅から1000〜2000平米くらいの空間をビジネスの対象にしてきたが、システムエアはさらにスケールの大きい空間での空調を手がけている。2社の得意分野を合わせることで、スピード感をもってBtoB市場での価値を提供していきたい。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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