楽天、3700億赤字でも「状況は意外に悪くない」訳 決算の「5つの数字」で読み解く今後の行方

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今回楽天グループが開示した数字のうち面白い数字があります。それは「まだ452万人しか加入していない楽天モバイルのユーザーが、実は楽天市場のスーパーSALEでは流通総額の約24%を占めている」という数字です。楽天エコシステムに取り込まれてしまった人がスマホも楽天モバイルに統一しているケースが思いのほか多いわけです。

実は楽天グループの場合、楽天モバイルがまだそれほど楽天エコシステムの武器にはなっていない現状があります。ライバルのソフトバンクの場合は、ソフトバンクユーザーだとヤフーショッピングでの買い物が楽天以上に大幅にポイントアップしたり、電子書籍がキャンペーンの日には半額になったりといったスマホユーザーへの大盤振る舞いが見られます。

楽天モバイルユーザーはそれと比べるとまだあまり楽天エコシステム内では優遇されていません。おそらくその理由は、設備投資での巨額な赤字があるために顧客還元の原資が今のところ少ないからでしょう。

風向きを変えられるエコシステムを持つ楽天

逆に言えば2023年で設備投資が一段落して、2024年以降、本格的に楽天エコシステムへの投資を再開できる状態になれば、全体で3900万人存在する楽天エコシステムの会員数がそのまま楽天モバイルの潜在顧客数になるはずです。

以前、私は「楽天モバイルが黒字化するためには加入者数が1600万人を超える必要がある」という試算をしたことがあります。足元の452万人という数字だけを見ているとはるかに遠い数字に思えるかもしれませんが、いったんギアがかみ合い始めたらその風向きが変わる力があるエコシステムを楽天グループは強みにしています。

「過去最大3728億円の純損失だから楽天グループは危ない」という意見もあるとは思いますが、構造的には今がいちばんきつい状況であることと、ファクトとしては楽天の個別のKPI自体はそれほど悪くないこと、言い換えると、楽天の未来はいいものに変わっていく可能性はけっこうあるということをみなさんにお伝えしたいと思います。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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