製薬大手「共創エコシステム」に企業が殺到する訳 2年で280社、80件以上のビジネスマッチング

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不確実性が深まる中で従来の手法にとらわれず、よりスピーディーに革新的な製品・サービスを生み出すオープンイノベーションへの注目度が高まっている。

しかし、自社の強みを的確に把握し、適切な企業や研究機関を見つけ出して共創にこぎ着けるのは決して簡単ではない。サポートする企業やサービスもあるが、当然ながら相応のフィーがかかる。「新規事業にどんな可能性があるか試してみたい」とチャレンジできる環境が整っているとは言いがたい現状が日本にはある。

そんな閉塞感の漂う状況を打破する勢いを見せているのが、製薬大手アストラゼネカ日本法人が2020年11月に設立したヘルスケア・オープンイノベーションエコシステム「i2.JP」 (Innovation Infusion Japan:アイツー・ドット・ジェイピー)。わずか2年で280以上のパートナーが集まり、ビジネスマッチングの成立数は80件以上、アストラゼネカが関わっている進行中の共創プロジェクトは20件を数える。

パートナーシップとビジネスマッチングともに2年で大きく成長

しかも、製薬や医療などのヘルスケア業界にとどまることなく、他分野の企業も次々に参画しているという。なぜそこまで支持を集めるのだろうか。

イノベーションを通じて
患者の医療に関わる体験全体を向上

ヘルスケア分野の問題解決に向かい、集合知で実用的な最適解を生み出そうとしているi2.JP。そのスタンスを明確に示しているのが、立ち上げから携わるアストラゼネカの執行役員、トーステン・カーニッシュ氏の次の言葉だ。

「i2.JPへの参加に費用はかかりません。必要なのは、『患者さんのために社会を変えよう』というi2.JPのミッションへの共感だけです」

アストラゼネカ 執行役員 トーステン・カーニッシュ氏
アストラゼネカ 執行役員 トーステン・カーニッシュ氏

参画後は必ずしもアストラゼネカと組む必要はなく、パートナー間で自由に協働できる。同業界の競合の制限や縛りなどもないオープンさが魅力だ。その背景にまずあるのは、少子高齢化社会によって医療制度が維持できなくなることへの危機感だ。

従来、製薬会社は「治療」に焦点を当ててきた。だが、患者を中心に据えながらも持続可能な医療制度を維持するには、ヘルスケア業界の垣根を越えてパートナー同士が連携しながら、予防から回復した後のケアまで、患者の医療に関わる体験全体を向上させていく必要がある。

患者さんの医療に関わる全体的な体験

アストラゼネカは、2025年までに「イノベーションで患者さんの人生を変えるNo.1パイオニア企業になる」というビジョンを掲げており、サイエンスを礎に革新的な医薬品を創出するのみならず、イノベーションを通じて患者の医療体験全体に対して貢献をするという視点へとシフトし始めている。

当然、1社のみで成し遂げられることではない。ヘルスケアの未来のためには、同じ志を持つ仲間とアイデアを出し合い、連携していく必要がある。そこでアストラゼネカはオープンなエコシステムを構築し、広く参加を求めたというわけだ。多数の製薬大手が早期から参画している事実は、同じ危機感を業界全体が持っていたことを意味する。

「マーケットでは競争していても、日本のイノベーション推進のためにはパートナーシップを結ぶことが重要との理解もある」とカーニッシュ氏は分析するが、その中で先頭を切って場づくりを担い、ともすれば囲い込みになりがちなこうした活動でありながら、自社の都合を優先していないことは注目に値する。

取り組みをリードしてきたアストラゼネカの熱量は高い。実際、参画を希望する企業や研究機関とじっくりコミュニケーションを重ね、適切なマッチングに奔走してきたという。そうでなければ、2年で280ものパートナーの参画と、80件というハイペースのマッチングは到底実現できなかっただろう。

日本発のイノベーションを世界へ発信

そして実際に、この2年間ですでに、さまざまなアイデアが具現化されてきている。スタートアップからアカデミアまで、多種多様なパートナーが参画しているのもi2.JPの存在価値。アイデアを思いついても、ゼロからソリューションを探すのと、280社超のネットワークから探すのでは雲泥の差がある。このスピード感と集合知を、グローバル展開にもいずれは生かしたいと前出のカーニッシュ氏は話す。

「日本は高齢化が世界で最も進んでいます。日本が現在解決しようとしている問題は、他の国々でも将来必ず直面するはずです。アストラゼネカが世界20カ所以上に持つイノベーションハブのネットワークを生かし、i2.JPで創出されたソリューションを世界に発信したいですね。参画する企業にとってのみならず、日本全体に利益をもたらすはずです」

日本のアイデアや技術を発信し、グローバルに拡大することが日本の活力になる――。スタートアップを中心に、民間企業や地方自治体、アカデミアが集結するのも納得だ。新規事業の創出や、ヘルスケア領域の課題解決に関心を持つ人は、i2.JPのウェブサイトにアクセスしてみてほしい。

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