トヨタ社長交代、豊田章男氏に見た強烈な危機感 「私は古い人間」「クルマ屋の限界」発言を読み解く

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現に、そうした章男氏の思いを受け止めるかのように、佐藤氏は次のように会見で述べている。

「クルマ屋にしかつくれないモビリティの未来に一歩でも近づけるよう、がむしゃらに取り組んでまいります」

トヨタの新社長に就く佐藤恒治氏
新社長に就く佐藤恒治氏はレクサスインターナショナル/ガズーレーシングカンパニーの両プレジデントを務めてきた(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

つまり、佐藤氏が社長としての責務を果たしてこそ、章男氏は自分の思いを全うできる。「自分は古い人間」といって、自分と同じ53歳でトップに就く佐藤氏に花を持たせたと解釈するのは、そう間違っていないだろう。

53歳は、歴代のトヨタ社長としては異例の若さである。のちに触れるが、明らかに抜擢だ。彼のトップ就任には強い風当たりが予想される。章男氏が世襲批判をかわして、社長に就いたときと同じ苦労を味わわせるわけにはいかない。それゆえに、章男氏はあえて、「自らが社長に就いたのと同じ53歳」と言ってみせたに違いない。

「トップには体力、気力、情熱が必要」と語ったのも、佐藤氏の若さをポジティブに受け止めてもらうためだろう。

懸念された“裸の王様化”

社長の交代劇が、なぜ、いまなのか。背景として、世界情勢の激変を見る必要があると思う。

日本の産業界は、停滞感、閉塞感に見舞われている。それを象徴するかのように、自動車業界、なかんずくトヨタも、世界トップの生産台数を誇るものの、一時の勢いがない。コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、米中対立などが経営を直撃、サプライチェーンの寸断に加え、半導体不足も深刻だ。カーボンニュートラルなど地球規模の問題にも正面から向き合わなければならない。デジタル化への対応も必須課題だ。急速なEVシフトに取り残されないように注意しなければならない。

トヨタが、こうした危機的状況を突破するには、一段と経営ステージを上げる必要がある。むろん、章男氏が引き続きトップであり続け、経営に取り組むことはできる。が、しかし、章男氏は考えたはずだ。14年間社長を続けると、裸の王様化が懸念される。カリスマ社長にとって、裸の王様のリスクはつねに隣り合わせだ。実際、章男氏自身、周囲の本音が聞こえなくなることを危惧してきた。

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