「土地がない」熊本・菊陽町、半導体バブルで悲鳴 200社の問い合わせ殺到、交通渋滞の解消に全力

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そんな状況を尻目に県内の他の自治体で誘致の動きが活発化している。1月25日には八代港や九州新幹線・新八代駅がある八代市の中村博生市長が定例会見で「TSMCの熊本進出を契機とした市町村間の企業誘致競争などを踏まえ、新八代駅周辺の物流・人流拠点機能を高めるとともに、将来を見据えた企業誘致の整備を進めていく」などと語り、新八代駅周辺及び企業誘致用地整備推進本部を設置したことを明らかにした。

県や国もイケイケドンドンだ。熊本県はTSMC進出を機に半導体産業集積強化推進本部を設置し、受け入れ環境整備に取り組んでいる。1月11日から14日にかけて蒲島郁夫知事や経済団体を中心としたメンバーが台湾を訪問し、TSMC本社で同社幹部と面談。県の取り組みを説明したほか、経済交流セミナーを開催するなど積極的に熊本をアピールした。TSMC幹部との面会後、蒲島知事は「相互信頼という意味でとてもいい機会だった」などと語った。

住宅、交通インフラの整備が進む

TSMC新工場の2025年時点での従業員は約1700人体制となる見込み。そのうち新卒・中途採用は約700人で、その他はTSMCやソニーグループからの出向者、アウトソース(外部委託)とみられている。23年春の新卒採用は100人超で地元大学からの内定者が多いと報じられている。

住宅や交通手段について、町は「1000人規模の住宅需要を見込み確保に向けて取り組んでいます。交通渋滞の解消に向けても、無料バスの走行試験などを踏まえて関係機関と対策を進めていきます」(商工振興課)と受け入れ体制整備に追われている。

菊陽町を起点に熊本県、九州全体が半導体産業の集積・誘致で気勢を上げているといったところだ。肥後銀行などを傘下に置く九州フィナンシャルグループは、TSMCの熊本進出による経済波及効果が2022年から10年間で4兆2900億円になるとの試算を公表している。九州の"半導体バブル”が本格化するのはこれからである。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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