【後編】「母の愛情不足」に悩んだ45歳彼が見た光 カウンセリングに行けなくなった彼が感じた事

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「『村木、お前は我慢だけして、無駄にがんばって生きていけばいい。これまで、ずっと、そうやって生きてきたじゃないか。いまさら変わろうとするな。変わろうとして、失敗したらどうする?』と問いつめてくる。でも自分は、『嫌だ、変わりたい』と宙ぶらりんのまま泣き叫んでいる。

『もう、このまま落っこちて死んでいくんだ……』そんな想像をしていたんです。だけど、もしこのまま死んだら、自分は母親のせいで死んだことになるような気がしたんです。

そうしたら、急に納得できなくなりました。あの人はいまも、なに食わぬ顔で生きています。助けてくれず出て行った父親にも腹が立ちました。なにもかもにムカついて、怒りでどうしようもなくなりました。

こんな人生になったのは親の影響もあると思います。だけど、こんな生き方になったのは自分が必死に生きようとした結果だということにも腹が立ちました。カウンセリングを受けなければ、自分の人生なんて振り返らなければ、なにも見ないままに生きていくことができたかもしれません。

もしそうしていたら、いずれはまた死のうとしていたと思います。カウンセリングがはじまってしまったせいで、ばからしくて死ぬこともできなくなりました。かといって、積極的に生きていくこともできませんでした。

そんなことを考えていると、5回目のカウンセリングに行くことが嫌になりました」

自分自身を許せなくなった

私には村木さんのつらさが痛いほどわかる。彼は自分自身を許せなくなった。こういう生き方しかできなかった自分に対してだ。

そしてその生き方の根っこには、彼に興味も関心も示さず反応しない母親の存在があったことを理解した。

しかし受け入れられなかったのは、つらい幼少期の家庭環境を生き抜くために自ら身につけていった(適応していった)生き方のせいで、うつ病にもなったし、死ぬことまで考えたことだ。─―がんばっても、なにも残らなかった。

彼のなかで自然と怒りが湧いた。と同時に、自分が壊れてしまいそうにもなった。すると、今度は恐怖が襲った。その狭間で、どうすることもできなかった。

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