闘い10年、大川小「津波裁判」映画が示す悲痛な教訓 子どもの死亡を検証する「CDR」の大きな課題

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吉岡弁護士は、大川小の事例の一番のポイントは「なぜ50分も校庭にとどまっていたのか」だと言う。遺族による聞き取りや検証で、教務主任が裏山への避難を強く訴えたが、教頭を含めたほかの10人がそれに賛同しなかったことがわかっている(校長は被災時不在)。

遺族の1人も映画の中で、そこには人間関係の問題があったのではないかと指摘し、「そんなことでうちの息子が死んでしまったのか」という苦しい胸の内を明かしている。

「教員間の上下関係だとか、そういう、ものが言えない教育現場の問題。そういうところにメスを入れて行くのが、本当の検証だと思います」

改善されなければ、遺族は同じ苦しみをずっと味わう

もう1人の原告代理人、齋藤雅弘弁護士(68)も、遺族に寄り添ってきた立場から、検証について言及する。

「わが子が亡くなったときの状況は、遺族にとってとても大切なことです。それがわからないことのつらさ、大きさをどうやって自分の中で消化していくか。消化できないかもしれない。今生きている以上、背負っていくしかない。

では、どうしたらいいのか。これは本当に深い問題です。そういう立場に遺族を置かせてしまった本質はいったい何なんだ、とつねに問い続けていくことが重要ではないでしょうか。

その1つの切り口として、どのような仕組み、制度を作っていくと、今のような問題を少しでも軽くしていくために役立つか。それがあるべき方向だと思います」

「遺族の映像にショックを受けた」という寺田監督は、検証について今、このように思っているという。

「なぜ子どもが死んでしまったのか、なぜこういう状況になってしまったのか、という原点を忘れずにやっていけばいいのだけれど、そこが取り除かれてしまう。そこが大事なのに、現実はうまくいっていない。でも、改善されなければ、同じような苦しみを遺族にずっと味わわせてしまうわけです。

大川小のご遺族は、ほかの皆さんに同じような思いをしてほしくないと、10年以上闘いを続けてこられました。映画を見た方には、本当にこういう思いを同じように繰り返していいのかっていうことを、自分ごととして考えてもらいたい。次につなげていかないと。(大川小の犠牲と遺族の苦しみが)現実にあるわけですから」

取材:益田美樹=フロントラインプレス(Frontline Press)

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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