「子ども食堂行くな」の言葉に隠された母親の本意 「貧困対策」というラベリングが親子を遠ざける

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支援を受けることに引け目や罪悪感を覚え、困りごとを口に出せない親子もいる。

「『困っていません』という態度こそ、SOSのサイン。そういう子には『助けてもらった経験があれば“助け方”もわかるようになる。だから次に助ける側に回ればいいんだよ』と話すと、少し顔が明るくなります」

実際に今、ボランティアとして食堂を手伝う高校生の多くは、小学校時代に食堂へ通っていた子たちだ。そんな彼ら彼女らを見ている子どもたちがまた、成長して支え手に回るという好循環が生まれている。

田中さんは、「活動を続けるには、地域の人を巻き込むことが絶対に必要」と強調する。

食堂を開く際は、田中さん宅の「親子ひろば」に参加していた母親たちが協力して、DIYで家具やテーブルを作ってくれた。地元の大学で保育士や教員を目指す学生たちも、食堂を手伝う。住民から野菜の提供を受けて食材に使うほか、子どもたちが食堂の前で「お気持ち」価格で販売することもある。すると、近所の高齢者が喜んで買っていく。

「食堂に関わることで、子どもと直接の関係ない大人たちも『公園で遊んでいるあの子は、1人ぽつんといるけど大丈夫?』など、周りの子どもに目を向けるようになります」

「パチンコ屋に通う親に楽させるの?」

開設準備をしていたころ、田中さんは毎日前を通るおばあさんに「何をつくるの?」と聞かれた。子ども食堂だと話すと「私は反対よ」と言われた。

「生活保護を受けているのに、パチンコ屋に出入りする人を私はたくさん見てきた。あなたの活動は、そういう親に楽をさせることになるんじゃないの?」

田中さんは「なるほど、そう考える人もいるだろう」と納得しつつ、おばあさんに言った。

「でもパチンコ屋に通う親を持ったのは、子どもの責任ではありません。私は子どもたちが境遇に関係なく、みんなで一緒にご飯を食べる場をつくりたいんです」

おばあさんはその後、食堂前で売る野菜を高値で買い上げてくれる心強い「応援団」の1人になった。

「反対の声は、関心を持ってくれている証拠。いちばん怖いのは無関心です」と田中さん。だから毎朝、犬の散歩をしつつ登校する子どもたちにあいさつするなど、関心を持ってもらうための「種まき」を欠かさない。

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