なぜ地方は厳しい現実を直視できないのか 「建前だけのバラ色計画」が地方をつぶす

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一例を挙げましょう。昨今は空き家などを活用して、店舗にしたり、ゲストハウスにしたりという「リノベーション事業」の取り組みなどが全国各地で実行されています。人口減少のなか、地方創生では非常に重要な取り組みです。

その中でも、失敗するケースは従来型計画の方法です。多くの人達を入れた協議会で、「立派な計画」をたてて、それをもとに自治体が補助金を出して立派な改装工事を行ったものばかりです。

「縮小社会型」で成功しつつある、北九州市小倉地区

一方、成功するケースは、最初に営業活動をしながら実需に沿って計画を修正していきます。すなわち、入居する人たちが支払い可能な家賃を調査しなおして再設定したりして、十分に投資回収ができるよう、改修工事の水準を見極めています。資金も民間の投融資を中心としており、ちゃんと稼ぐシステムとなる仕掛けをしています。

例えば、北九州市小倉地区で展開されている取り組みでは、北九州市を中心に「北九州小倉家守(やもり)構想」を産官学横断で立てつつも、あくまで概要という位置づけを示したうえで、個別プロジェクトは民間主導で各自の責任を明確にしつつ、複数の不動産オーナーや建築家などが実行しています。

北九州市は、産業空洞化等による人口減の深刻な大都市の一つです。この取り組みによって、3年間で10件ほどの物件が再生され、のべ300人以上の就業・雇用が生まれ、中心部の通行量も増加に転じています。実は、過去に国の方針にそった「中心部再生計画」にも取り組んできましたが、成果が出ていませんでした。それを転換し、現在の縮小社会型の計画と実行の方法に転換してから、成果が一気に出ているのです。

いかがでしょうか。問題は予算がないとか少ない、あるいは外部環境が一段と悪化したとかいったことではなく、過去に囚われたやり方なのです。縮小時代に対応した方法を用いれば、どれだけ困難な環境でも、「身の丈にあった解」が必ずあります。

非現実的な計画を立てると、計画が破綻した時に悲惨なことになります。その時、ツケを払うのは、未来の若者や子どもたちです。地域活性化に関連する計画に重要なのは、「血気盛んな今の大人たち」の願望ではなく、最悪な状況になっても対応できる、「未来に向けたリアリズム」ではないでしょうか。

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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