「原発回帰」大転換に政府審議会委員が激怒する訳 原発推進が前提?発揮されない「聞く力」

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――経済産業省の原子力小委員会は、どのような委員構成でしょうか。

設置当時の2014年には(『脱原子力国家への道』を著した)吉岡斉・九州大学教授ら、原発に厳しい方々もいたのですが、入れ替わるたびに推進派の割合が増えていきました。

今は脱原発の意見を言うのは委員21人のうち私を含め2人しかいません。委員長は山口彰・原子力安全研究協会理事で、委員は朝野賢司・電力中央研究所社会経済研究所副研究参事ら。3人いる専門委員は、日本原子力産業協会理事長、全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)会長、電気事業連合会原子力開発対策委員長(関西電力副社長)。いわゆる新電力の人は当初はいたのですが、もういません。委員の構成からして原発推進は圧倒的多数で、(推進は最初から)決まっているのです。

昨年8月に岸田首相が原発回帰を検討すると述べてから、小委員会でもそれが議題になりました。しかし、小委員会では意見を言う際に「3分程度」と指定され、経産省が最後に答えて終わる。議論にならないのです。私は原発の危険性やコスト、廃棄物の処分方法が決まっていないことを訴えてきました。経済的な観点で言うと、原発の建設費はかつて1基数千億円でしたが、福島の事故後は安全性を高める必要性が出て、1基1.5兆円から2兆円には跳ね上がっています。維持費にも何兆円もかかる。

11月28日の小委員会には「3分の発言時間内に言い尽くせるものではない」として、意見書も提出しました。意見書では、「原発推進方針は福島第一原発事故の教訓を放棄するもの」との総論を掲げ、「原発再稼働の推進は大規模停電リスクの増加にもつながる」などと8ページにわたって問題を指摘しました。

原子力小委員会委員と原子力産業との関係(原子力資料情報室作成)

プレゼンをしてもまったく反映されない

――パブリック・コメントで国民から意見を求めるよう、小委員会で主張してきたとも聞いています。

原発施策が「推進」に大きく後戻りする大事なときに、国民の意見を聞かないことは最も大きな疑問です。「国民の意見を聞くべきだ」と主張すると、私にプレゼンテーションするように言ってきました。10月にリモート会議でプレゼンしましたが、まったく反映されない。それどころか、私の意見を聞いたことで国民の意見を聞いたことに代替されてしまったのです。いくら何でもあんまりだと思いました。

小委員会の取りまとめとなる12月8日には、委員長一任で会議を終了しそうになった。それで、私と同様に脱原発を主張している村上千里委員(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会理事)が「私、手を挙げているんですけど」と声を上げた。そして、

「全国消費者団体連絡会からもエネ庁および委員長に意見書が提出されていると認識しておりますし、9月には大阪消費者団体連絡会や主婦連合会からも今回の検討の方向性について考えを撤回するべきであるというような声明も出されております」

「パブコメで聞いた意見というのをちゃんと踏まえたうえでもう一度議論をするというのであれば、国民的な議論の一部、十分ではないとは思いますが、そういうことになるかと思うんですけれども、パブコメの後、ちゃんとこれが議論されるのかというところで、多分されない、スケジュール的にされないだろうということを考えると、やっぱりまったく納得できない」

と言い、(委員長一任での議論打ち切りに対し)再考を求めました。

私も手を挙げ、「強引な進め方はやはり政策に対する国民の信頼を明らかに損ねるものだと思う。最低限のパブリック・コメントぐらいはやる程度の姿勢を見せるべきだ」と述べました。

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