スペースシャトルが「帰還時」だけ滑走路を使う訳 大量に積み込んだ「燃料」に理由があった

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巨大なロケットは、実は飲料のアルミ缶のようなもの。機体は限界まで軽さと丈夫さのバランスを追求して作られていて、スペースXが「ファルコン1」という最初のロケットを開発していたころ、飛行機での輸送中に急激な気圧差で機体がへこんでしまったというエピソードもあるほどです。

一方でスペースシャトルのオービタは私たち宇宙飛行士が搭乗する船室や大きな貨物室を持っていて、通常のロケットのように燃料をたくさん積むことができません。

そこで、スペースシャトルの打ち上げ時には、全長37.2mのオービタよりもさらに大きな全長56.2mの外部燃料タンクと、補助ロケットの固体ロケット・ブースタの3つを組み合わせます。

巨大な外部燃料タンクいっぱいに往路の燃料を積み、さらに固体ロケット・ブースタを加えることで初めて、スペースシャトルは宇宙速度に到達できるのです。この状態では飛行機のように水平に滑空して速度を出すことはできないので、スペースシャトルが滑走路を使用したのは帰還のときだけということになるのです。

今も活躍を続けるスペースシャトルのメインエンジン

スペースシャトルは2011年に引退し、オービタが滑空して宇宙から戻ってくる光景はもう見られません。ですが、スペースシャトルのヘリテージであるメインエンジン(SSME)は、実は2022年に再び活躍を始めています。

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次世代の宇宙探査計画「アルテミス」計画の最初の宇宙船「オリオン」が11月から12月までに無事に月を周回飛行して地球に帰還しました。このオリオン宇宙船を搭載した新型ロケット「SLS」のメインエンジンRS-25は、SSMEを改修して再利用しているのです。

最大で2020トンにもなるスペースシャトルの飛行を成功させたエンジンですから、パワーと性能は実証済み。

オリオン宇宙船はカプセル型で大西洋に着水する方式ですから、RS-25エンジンが運ぶ宇宙船が滑走路に帰ってくることはもうありませんが、宇宙飛行士を飛翔させる役割は今でも果たしているということになります。

野口 聡一 宇宙飛行士

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のぐち そういち / Soichi Noguchi

博士(学術)。1996年5月、NASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選抜、同年6月NASDA入社。2005年スペースシャトル「ディスカバリー号」で、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在、3度の船外活動をリーダーとして行う。2009年、ソユーズ宇宙船に船長補佐として搭乗。2020年、日本人で初めて、民間スペースX社の宇宙船に搭乗、約5か月半、ISSに滞在した。4度目の船外活動(EVA)や、「きぼう」日本実験棟における様々なミッションを実施し、2021年5月、地球へ帰還。主な著書に『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』アスコム刊がある。

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