巨額赤字の住友商事は、まだ不安がいっぱい 今期は資源減損3250億円、16期ぶり赤字転落

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2015年度はメキシコで立ち上げたマツダの完成車製造合弁事業やマレーシアのアルミ精錬事業などの本格収益貢献が見込まれる一方、最大の懸念材料は原油安の影響だ。米国の掘削リグ稼働数が減少を続けるなど、すでに採掘コストの高い北米のシェール開発に冷や水を浴びせている。

同業の商社の中では「北米の鋼管取引が年末から前年比2割減落ち込んでいる」という声も出ており、住友商事の主力事業の一つである北米シェール向けの鋼管取引事業への影響は小さくない。

追加で減損が発生するリスク

また、減損懸念もすべてが払拭されたわけではない。残存簿価が2000億円を超えるマダガスカルのニッケル鉱山事業「アンバトビープロジェクト」は大規模修繕を終え、足元の操業率が連続100日中90日の平均でフル生産の90%に達した。ただ、ニッケル相場は昨年夏から約3割下落、現地でのストライキも発生しており、中期的な減損懸念はくすぶる。

不振が続いている米国のタイヤ事業TBCも小売部門の立て直しが遅れれば、追加減損の発生がありうるだろう。2300億円という2015年度の純利益計画は、今2014年度の減損を除いたベースの純利益2400億円には届かないことを示すが、さらに縮むおそれもある。

R&I(格付投資情報センター)は3月25日、「原油をはじめ資源の価格低迷で事業環境は一段と厳しくなっている」として現在AA-ネガティブの格付けを1ノッチ程度格下げ方向に指定した。

住友商事は今期の資源関連の巨額減損を受け、1案件への投資上限の設定やストレステストの実施など新たなリスク管理手法を導入した。また、総資産に占める資源の割合を2019年までに2割程度に高める計画は白紙還元。既存案件の立ち上げと収益化に注力する方針だ。

ただ、2014年9月の巨額減損発表後に設置した経営改革特別委員会の詳細なレビューは外部に公表されておらず、どこまで過去の経営責任を明確にできたかについては疑問符が残った。今回の新中計で掲げた「2017年度純利益3000億円以上」を達成するには、巨額減損の教訓をどこまで活かせるかにかかってくるだろう。

秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年4月から再び『週刊東洋経済』編集部。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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