鉄道博物館で展示、お召機関車EF58形61号機とは? ここは押さえたい、希少車両の見どころを解説

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EF58では、製造の過程や製造後の細かな改造により、同じEF58なのに車両によって個性があった。お召機の61号機も製造後の変化があり、前面の窓の上に水切りが取り付けられた点が目立つところだ。これは、雨水が前面の窓に流れ込まないように配慮されたものだが、この水切りも時代によって違いがある。

かつては、水切りとワイパーが干渉するため、ワイパーと干渉する部分の水切りを円形としていた。のちにワイパーを交換して水切りを直線状に直しているのだが、鉄道博物館で解説のために使用されている写真では、ワイパーの周りの水切りが円形だった頃の姿になっている。

鉄道博物館では、EF58形89号機も保存・展示されているが、車体色や装備などが異なり、EF58の違いを比べることができる。61号機では「ため色」という特別な車体色に塗られているが、これは御料車に合わせて塗り替えたもので、登場当時は茶色の色合いが異なっていた。現在の「ため色」も厳密には違う色とされ、過去の「ため色」よりも赤みが強いと言われている。鉄道博物館には過去の御料車も保管・展示されているが、木製の御料車は漆色に近い色合いで、多少の変化があるものの、車体が金属製となった現在も同等の色彩が引き継がれている。

希少となる「お召列車」

EF58形61号機がお召列車用の電気機関車として造られたのは、行幸等で鉄道の長距離移動があったからだ。現在では長距離の移動は新幹線や飛行機が主体となっているが、御料車にはトイレがあり、これが鉄道利用の有利な点でもあった。

だが、今上天皇の時代では近距離の移動で鉄道を利用する機会がなくなっている。2022年10月にはとちぎ国体の開会式の出席などに関連した行幸啓があったが、この際は100km程の距離を自動車で移動している。

今上天皇がかつての皇太子だった時代、天皇の職務を代行した時期があった。この際に運転が予定されていたお召列車の運転が中止された事例もあり、今後は新幹線利用や伊勢神宮での移動でお召列車の運行が期待される以外、お召列車が見られる機会はなくなりそうだ。そういった意味でも、今回EF58形61号機が収蔵され、展示されたことは意義のあることなのかもしれない。

柴田 東吾 鉄道趣味ライター

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しばた とうご / Tougo Shibata

1974年東京都生まれ。大学の電気工学科を卒業後、信号機器メーカー、鉄道会社勤務等を経て、現在フリー。JR・私鉄路線は一通り踏破したが、2019年に沖縄モノレール「ゆいレール」が延伸して返上、現在は車両研究が主力で、技術・形態・運用・保守・転配・履歴等の研究を行う。『Rail Magazine』(ネコ・パブリッシング)や『鉄道ジャーナル』など、寄稿多数。

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