サービス停止「ねこホーダイ」が見落とした大問題 SNSなどで批判の声、背景に「保護猫活動」の限界

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今回の「ねこホーダイ」が前述した保護猫活動の困窮に対する苦肉の策だとしても、決して見落としてはならないことがあります。それは「保護猫は命ある生き物」であるということ。また、その扱いには「十分な配慮が必要」であるということ。サービスの名称からも、内容からもその部分を感じることはできませんでした。人間の有益だけが強調されていたと思います。

筆者は「ねこホーダイ」のサービス内容を目にしたとき、健全なブリーダーが20年以上前から愛情を持って行っていることが頭に浮かびました。彼らは猫や犬を譲渡する際は飼い主を厳選し、終生飼養を必須条件にしています。しかしそうはいっても、さまざまな事情で飼えなくなったり、飼い主自身にも万が一は起こります。その場合には、一緒に新しい飼い主を探す、あるいは自らが引き取って終生飼養しています。

猫のブリーダーのAさんは「譲渡した猫がつらい目に遭わないように、飼い主さんの選択はやはり必要だと思います。また、譲渡後は飼い主さんをサポートし、困ったときに力になることも大切です。問題が解決できれば、手放すことなど考えませんから。高齢者や単身者にも譲渡することがありますが、責任を持って万が一のことを考えてくれているので、私が引き取ることは滅多にありません。私は『最後の砦』ですね」と話します。

その関係性が築けるのは、譲渡にハードルを設け、愛情、責任、モラルのある飼い主を選択しているからこそ。そして、譲渡後のブリーダーの手厚いサポートがあるからこそ成り立つものだと考えます。

譲渡する側も譲渡される側も、猫や犬の生涯にわたって愛情と責任を持ち続ける必要があります。「最後の砦」はその先に存在するもので、「ねこホーダイ」がうたい文句にした「その『責任』を誰かが代わりに負えばいい」という無責任さが台頭してはならないのです。

そもそもペットショップの生体販売が批判される理由は、お金を払えば、何の審査もなく誰もが猫や犬を飼うことができる安易さにあります。そのため、実際に飼ってみたら「こんなはずじゃなかった」と手放す人もいます。動物愛護団体であれば、安易に飼えば、安易に手放すことにつながるということは熟知しているはずなのに、なぜ手軽さをアピールする「ねこホーダイ」と提携したのか。その団体の質も問われかねず、本当に残念な顛末だったと思います。

保護猫・保護犬問題の解決策は?

では、保護猫、保護犬問題を解決するには何が必要でしょうか。

まず、現状の保護猫・保護犬の数を減らすこと、そして保護猫・保護犬を出さないこと、です。猫や犬に関わる人がそれぞれの立場でできることを考え、愛情と責任を持ってその2つの行動を並行することが必須だと考えます。飼い主、ブリーダー、ペットショップ、動物愛護団体、自治体などが本気で考え、行動しなければ解決は困難でしょう。

解決の糸口は1つではありません。今回の「ねこホーダイ」に対して、SNSなどでもさまざまな意見が寄せられていました。保護猫・保護犬の問題をどう解決していくか。それぞれの立場ごとに真剣に考え行動する時期がきているのではないでしょうか。

阪根 美果 ペットジャーナリスト

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さかね みか / Mika Sakane

世界最大の猫種である「メインクーン」のトップブリーダーでもあり、犬・猫などに関する幅広い知識を持つ。家庭動物管理士・ペット災害危機管理士・動物介護士・動物介護ホーム施設責任者・Pet Saver(ペットの救急隊員)。ペットシッターや保護活動にも長く携わっている。ペット専門サイト「ペトハピ」でペットの「終活」をいち早く紹介。豪華客船「飛鳥」や「ぱしふぃっくびいなす」の乗組員を務めた経験を生かし、大型客船の魅力を紹介する「クルーズライター」としての顔も持つ。

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