学歴を批判しても受験戦争に奔走する人々の本音 小田嶋隆「親として考えるのは勝利もしくは生存」

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同じように、現実に露骨な学歴差別が横行している世の中では、誰も差別の被害者にはなりたくないわけで、とすれば、加害者の側に立とうとするほかに有効な対処法はない。

つまり、受験戦争の激化がいかに嘆かわしいことなのだとしても、その戦争の渦中にほかならぬわが子がいるのであれば、親としてまず考えるのは、戦争の抑止よりは、勝利もしくは生存なのである。

誰もが、子供にはのびのびと育ってほしいと願っている。

が、その一方で、息子が65点を取ってくると簡単に逆上する。

「のびのび」は甘ったれた楽観以外の何物でもない

われわれの考えている「のびのび」は、翻訳してみれば、

「のびのびと子供時代を満喫しつつ、学校のテストでは100点とは言わないまでも、85点平均ぐらいの点数を取って、最終的にはできれば一流大学に進んでほしい」

といった程度のもので、甘ったれた楽観以外の何物でもないわけだ。

だって、きょうびの小学校は、塾にも通わずにのんびりやっている野生派のガキが85点平均を取れるほど甘くはないんだから。

で、「のびのび」と「85点」が両立できないという現実に直面した時、われわれは、自分の息子を進学塾に送り込む決断をする。

しかも、ここが大事なところなのだが、われわれは、そうやって小学三年生の息子を週四回の進学塾に叩きこんでおきながら、それでも自分が学歴には冷淡な人間だと考えていたりするのだ。

なぜかって? だって、オレは息子に100点を取れなんて望んでないから。まだ三年生なんだし、85点で十分じゃないか……。

イヤな話になった。

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こんな記事を書いている私にしてからが、かつて受験勉強に狂奔してワセダに入学した人間ではあるわけだし、おそらく自分の息子なり娘なりが受験期を迎える時には、尻を叩かないまでも「勉強なんかやめちまえ」とは決して言わないだろう。

実際どうするんだろう? オレは、慶應幼稚舎の父母面接のために、髪を刈るんだろうか?

ま、慶應に入れるようなカネはないからその心配はない。

じゃあ、息子をどこの学校に入れたいのかって?

決まってるだろ。

東大だよ。

小田嶋 隆 コラムニスト
おだじま たかし / Takashi Odajima

1956年東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの1人。著書多数。2022年、65歳で逝去。

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