防衛費増額で財源にこだわる人の根本的な問題点 むしろ「縛り」が必要なのは財務省のほうだ

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そう考えると、個々の支出ごとに個別の資金調達を対応させるのでは、まるで事業部がたくさんあって、財務部がない会社のような非効率であることがわかる。

企業なら、資金調達さえできるなら低収益な事業でも行っていいというものではない。個々の支出項目が財源さえ見つかるならば承認されるということなら、異なる支出項目間の優先度や効率性(例えばコスト・ベネフィットの比較)が問われる仕組みがないことになる。

また、例えば消費税の増税は、社会保障支出と軽重を比べるのではなく、まずほかの税目と比較されるべきだった。

現在の支出・財源対応システムでは、支出間、財源間それぞれの内部で適否に関する比較が十分働かない。この仕組みがもたらしている累積的な非効率性の影響はすでに莫大だろう。

現実の予算編成にあっては、個々の項目の査定や省庁間の交渉は行われても、異なる分野のコスト・ベネフィット分析を行ったことがないのが現実かもしれない。しかし、それでは知的に怠惰であると同時に、国民の財産を預かる政府として無責任だろう。

「財政のマクロ政策的責任」とは?

加えて、国の財政には、国家の債務と適切なマネーの量を供給するという、マクロ経済政策にかかわる調整機能がある。国債は、信用リスクがない資産として金融取引の基準になり、また中央銀行のマネー供給の見合いの資産にもなるべき存在なので、その残高はゼロが望ましいのではなく、国の経済規模の拡大とともに残高が拡大することが自然だ。

また、物価や景気の調節は主に中央銀行の金融政策を通じて行われるとしても、金利がゼロに達した段階では財政赤字の増減に大きく影響される。一層の金融緩和が必要な場合に緊縮財政方向に変化するべきではないし、逆の場合には財政の引き締めが必要かつ有効な場合がある。

ゼロ金利にまで達した金融緩和政策の下で消費税率を引き上げて財政再建方向に舵を切るような政策がいかに不適切なのかは、近年の経験が雄弁に語るところだ。

あるいは、財政出動をやりすぎて過剰なインフレを招いたケースについては、コロナ対策で財政を使いすぎた現在のアメリカの状況を見るといい。「緩和」と「引き締め」のどちらが適切かの判断基準は、主にそのときのインフレ率で判断できる。そのためのメドとしてインフレ目標がある。

ある年の防衛費で生じたにせよ、ほかの支出で生じたにせよ、財政の帳尻の変化を、国債で負担するのがいいか、何らかの税金の増税で負担するのがいいかは、時々の経済状況による。

次ページ硬直的な支出・財源対応システムにはうんざりだ
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