「臓器移植」施行25年でもいまだ増えぬ厳しい実態 移植できた人は一握り「待機中」に亡くなる人も

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妻は体育の教師だった。

「生まれつきの病気や今の医療では治せない子どもたちがいる。体を動かす楽しさを知ってもらうにはどうすればいいのか。女房のなかでは移植医療しかないというのを、自分の学びの中で導き出したようです」(五十嵐さん)

家族写真
五十嵐さん一家。写真は結婚30年、名古屋のノリタケの森へ出かけたときのもの(写真:五十嵐利幸さん提供)

妻の生前の意思を尊重し、その意思を生かそうと、「ラストミッションのような形」(五十嵐さん)で臓器の提供を決めた。家族、親族の同意は簡単ではなかったが、乗り越えた。

移植できた臓器は、肺と腎臓、膵臓、そして角膜(眼球)。移植手術を終えてまもなく、腎臓を移植した患者さんから「自力で排尿できた」という一報が入った。その後も移植コーディネーターを介して、サンクスレター(提供者への感謝の手紙)をもらった。「普通の生活ができるようになった」といった内容がつづられていた。

「そのときに、“彼らの日常生活を女房が支えている”というのを実感できた」と五十嵐さんは言う。

日本の臓器移植の現実

臓器移植は、病気や事故などによって臓器が機能しなくなったり低下したりした人に、ほかの人が提供した臓器を移植することで機能を回復させる医療だ。健康保険で受けることができる。

日本で、脳死下の臓器提供を可能する「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」が成立したのは1997年6月。同年10月に施行されてから25年が経つ。

2009年7月には改正臓器移植法が成立(翌年7月に施行)し、新たに「意思表示があれば親族に優先的に提供できる」「本人の意思がわからなくても、家族の書面による承諾があれば、脳死下で臓器提供できる」「家族の書面による承諾があれば、15歳未満でも臓器提供できる」という要件が加わった。

この法改正によって脳死下での提供が本格的に始まった。

現在は基本的に脳死とされる状態か、心停止した場合に提供が行われ、脳死下では心臓や肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、角膜が、心停止下では腎臓と膵臓、角膜(眼球)が提供できるようになっている。また、腎臓や肝臓では健康な家族らがドナーとなって臓器を提供する生体臓器移植も行われている。

ところが、五十嵐さんが冒頭で話しているように、日本ではドナーがあまり増えていない。

日本の場合、脳死下や心停止下で提供ができるのは、健康保険証・運転免許証の裏面などにある「意思表示カード」で提供の意思を示していて、かつ家族の承諾があった場合。それからもう1つ、意思がわからないけれど家族の承諾があった場合だ。

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