ウーバー配達員「労働者」認定でも現場に残る不安 会社は再審査申し立て、決着まで長期化懸念も

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一方で、2021年と比べて単価が下がっているという声は、多くの配達員から聞かれる。まん延防止等重点措置などの行動制限がないことで外出が増え、デリバリー特需が落ち着いたことも影響しているとみられるが、明確な基準はわからない。

兼業で働く配達員は語る。「配達員は報酬について何も言えない。ウーバー側の塩梅で報酬体系が急に変わる可能性もある。だから専業では絶対できないと思っている」。

そのほか、配達員からは「届け先の住所が明記されていなかったり、位置情報が間違っていることが多い」「電話サポートがなくなり不便」「店舗の都合で待たされたのに、配達員の悪い評価になる」といった声も挙がる。さまざまな実務の改善もテーマになりそうだ。

再審査で逆転の可能性も

審査に3年近くを費やした今回の都労委の命令は、事実認定も丁寧で、取引の全体を明らかにしようという姿勢があったという。「詳細な点も明らかになり、今後、労働法の研究者を含め、法的にどう規律すべきか議論できる素材が提供されたこともよかったと思っている」(菅弁護士)。

都労委は具体的な金銭の流れなど、取引の事実関係なども審査している(記者撮影)

ウーバーは現時点で「都労委の判断は事実認定と法令の適用を誤っている。配達員のアプリ使用の実態と、フレキシブルで独立した働き方などを考慮していない」として命令には従わない構えだ。

そしてウーバーは、冒頭に示した通り、12月7日に中央委員会に再審査を申し立てた。中央労働委員会における審査は1年3カ月以内をメドとしているが、一段と時間を要することもある。再審査で違う判断が出たり、さらには訴訟に発展するケースもある。

ただし、ウーバーとしても、事業を拡大するうえで配達員の確保は欠かせない。ライバルの出前館がZホールディングス傘下で積極投資を続ける中、現場の配達員との溝が深まる事態は避けたいはずだ。

配達員からは、競合サービスと比べて「店舗も注文数も多く稼げている」「店が極端に遠かったり、配車が早すぎたりすることは少ない」などと評価する声も多い。配達員が不安なく、継続して働ける環境作りはウーバーにとっても得策になる。

コロナ禍で急拡大したフードデリバリーの事業基盤を固めるためにも、ウーバーには丁寧な説明と対応が求められそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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