規制緩和が打撃「仙台」タクシー、今も残る傷の深さ 2002年の構造改革がもたらした台数急増の苦悩

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新規参入をした事業者はまったくの別業界からの参入もあるが、基本的には運送や介護福祉、清掃業といった多角経営を行う事業者も目立った。なぜ別業種からわざわざタクシー業界を選んだのか。1カ月近くにわたり、新規参入をした複数社に取材申請をしたが、ほぼ全社が取材拒否という惨状だった。

そんな中で唯一正面から話を聞くことが出来たのは太白区に本社を置く、秋保交通だった。代表の青野邦彦さんは、規制緩和時に自交総連宮城地連に加入する乗務員69人の代表として、国を相手に約1億円の損害賠償訴訟を起こした過去を持つ。

仙台市が特定地域に指定されたことで、その訴えを取り下げたが、最前線で規制緩和の矛盾を訴えてきた1人だ。2003年に開設した秋保交通は、タクシー運転手たちが資金を出し合い設立し、労働組合が経営を行うという特殊な成り立ちでもある。

仙台の繁華街、国分町で客を待つタクシー(筆者撮影)

規制緩和の弊害は「質が落ちたこと」

青野さんが言う。

「規制緩和による最大の弊害は、タクシー業界の質が落ちたことだと考えています。以前の仙台は食べていくには十分な市場がありましたが、事業者や運転手が増えたことで、私自身も営業収入が半分以下に落ち込んだ。

そんな状況ゆえにお客様の奪い合いになり、結果マナーが低下してタクシー離れが進むという悪循環が生じ、乗務員は生活ができないから人が離れていく。結果、人材不足となり、現在は人がいないから稼働がしたくてもできないという社もあるくらいです。とくに若いドライバーの数は、本当に少なくなってしまった。私自身、今の状態を招いた発端は、規制緩和だったと考えていますよ」

秋保交通は車両数が12台という小規模な会社だが、客単価は仙台でも随一の高さがある。従業員は平均年齢で70歳を超えているなか、なぜそんな高単価を稼げるのか。青野さんが2005年に代表に就任して以降、注力したのは定額制のオンデマンド交通だった。

仙台は中心部から5、6キロ圏内がホットゾーンだが、市内の中心部から20キロほど離れた場所では同じやり方は通用しない。そのため、秋保から仙台市内や空港といった5000円程度の依頼が一日に何本も入るシステムづくりに腐心したという。背景にあったのは、年々強まる危機感だ。

「仙台は遅かれ早かれ自動運転の時代が来ると思っています。それは外的な要因というよりも、単純に乗務員の確保がかなり難しいから。そんな時代が訪れた際、強みになるのは顧客を大切にしていること、いかに地域に根付いているか、という点です。それは規制緩和の影響をモロに受けた仙台で営業しているからこそ、強く感じることでもあります」

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