N-BOXとルーミーが売れる「好ましくない」事情 車の実力以上に大きい世の中の変化による影響

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税額と乗車定員やエンジン排気量を比較して、小型車のルーミーを選ぶユーザーも多い。ルーミーの類似車種として、スズキ「ソリオ」もあるが、同社は軽自動車ブランドのイメージが強いこともあり、販売台数はさほど多くない。小型車版の需要はルーミーに集中して、一人勝ちになっている。

2022年12月にフルハイブリッドが追加された「ソリオ」(写真:スズキ)

以上のように、背が高くスライドドアを持つ軽自動車とコンパクトカーは、きわめて高い人気を得ているが、ホンダの商品企画担当者は複雑な表情を見せる。

「N-BOXの販売が絶好調なのはいいことだが、過度に売れると小型車が売れ行きを下げてしまう。本音をいえばN-BOXの販売を抑えてバランスを整えたいが、そうならない。N-BOXはモンスターのような存在だ」

販売の好調な商品を開発したのはいいが、コントロールが利かず、フィットなどの需要を奪っている。実際に現行フィットの販売台数は、ライバル車のヤリス、トヨタ「アクア」、日産「ノート」などに比べて大幅に少ない。

N-BOXとフィットは価格帯が重複するから、ホンダ車同士で比較され、N-BOXが選ばれてしまうことが多いのだ。N-BOXは、たしかにモンスターである。

上級移行を阻むモンスター

トヨタの販売店では次のような話が聞かれた。

「ルーミーへの乗り替えは、軽自動車や『ヴィッツ』などのコンパクトカーだけでなく、『ノア』などからダウンサイジングするお客様も多い。しかし、ルーミーから上級移行するお客様は少ない」

ルーミーは実用的なコンパクトカーだから、初心者ドライバーから子育て世代、高齢者まで幅広いユーザーに適する。クルマに趣味性を求めないのであれば、運転免許を取ってから返納するまで、ルーミーだけで済ませることも可能だ。

極端なことをいえば、日本には軽自動車のN-BOXとコンパクトカーのルーミー、そして3列シートミニバンのノアがあれば、クルマに向けられる実用的なニーズはすべて満たせてしまう。

2022年にフルモデルチェンジした現行「ノア」(写真:トヨタ自動車)

だからこそ、国内販売の1位と2位に入り「モンスター」とも呼ばれるのだ。クルマ好きには味気ない話だが、必然の成り行きである。

この背景には、新車価格が15年ほど前と比べて1.2~1.4倍に高まったこともある。2007年に販売されていたノアのXグレードは価格が203万7000円だったが、現行ノアのXグレードは267万円で、1.3倍になっている。

同様に15年前、コンパクトカーのヴィッツのエントリー価格は120万円を下回っていたが、現在のヤリスは147万円からだ。それなのに日本の平均所得は、15年前とほとんど変わっていない。

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