孤独がツラい人と何とかやっていく人を分ける差 社会課題にしないと個人問題としてやり過ごされる

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そして「このようなゆるい人間関係があれば、ひとりで生きる僕には十分なのだ」と締めくくっている(同上)。不思議なことに、ヒロシのいう「ゆるい人間関係」は、上野のいう「ユル友」と似たようなニュアンスで使われている。おそらくこれは偶然ではないだろう。いずれにしても、最低限の関係性がセーフティネットとして要請されており、そこには、自身の関係性に対する意識的な工夫や努力を絶やさない「関係のマネジメント」と形容すべき営みが垣間見える。

先に紹介したウォールディンガーは、人間関係は複雑に込み入っているものであり、「家族や友達との関係をうまく維持していくのは至難の業」と付言しているが、現在はなおさら厳しい試練が待ち受けている。地域コミュニティーなどの社会的なつながりがますます希薄化し、個人が負わなければならないリスクの比重が高まるとともに、相談や交際などといったコミュニケーション全般の市場化が拡大しているからだ。

「関係格差社会」の到来

このような事態は、よくも悪くも、わたしたちに「感情資本」の値踏みを促し、自主的な改善へと向かう動機付けを促す。「コミュ力おばけ」を羨望する能力崇拝が出現したり、『人は話し方が9割』(永松茂久著、すばる舎)というタイトルの本がベストセラーになるのは、関係性を対人スキルの次元でいかようにも変えられるように思える感情資本的なメソッドへの関心の高まりを示している。いわば資産とみなされない資産=「感情の働き」によって個々の幸福度の差がつく「関係格差社会」の到来である。

だが、「感情の働き」は、その人の社会関係や健康状態に依存している部分が大きい。離職や退職、病気や事故、いじめやパワハラなどの出来事によってそれは容易に失われる。また、加齢により心身のトラブルが襲い掛かる……歩けなくなる、脳がダメージを受ける、認知機能が低下する。歯車が少し狂っただけで社会的孤立に陥るまでにさほど時間はかからない。

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