就職サイト「学情」に物言う株主が噛みついた理由 東証もプライム市場の基準ボーダー企業を注視

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市場改革を実施した東証自身も、基準ボーダー企業の動向を注視している。東証は2022年7月から「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を開いて、上場基準に適合していない企業の取り扱いなどについて議論をスタートさせているのだ。

企業側の危機感はまだ薄い

その中では投資家や証券会社、事業会社などに求めたパブリックコメントも開示。「資本効率の低い企業が数多く、企業に改善を促す必要がある」といった意見や、上場基準のさらなる引き上げを求める意見、そして「企業間の競争や新陳代謝を促す仕組みが必要」といった意見などが開示されている。「そもそもスタート時に東証1部企業をほぼそのまま移行させたことで『東証は甘い』との批判が高まった。そのため東証も、今のままではいけないという認識を持っているようだ」と金融関係者は明かす。

とはいえ、企業側の危機感はまだ薄い。というのも「円滑な移行を図るため」という目的で、基準達成に向けた計画書を提出すれば、基準を満たしていない企業でも希望する市場区分への上場を認めるという「経過措置」に期限を設けていないからだ。

中には基準達成まで10年という計画書を提出した企業があったほか、フォローアップ会議の資料によれば、移行後に計画の進捗状況を開示した4〜9月決算53社の内、実に43社が引き続き未達で、3社が計画期限を延長した。それ以外にも新たに31社が基準に適合せず計画を開示しているという。

「東証内には、3年を基準に経過措置の期限を切ろうという議論もなされているようだが、企業側は計画書さえ作れば大丈夫だとまだまだ甘く考えているようだ」と別の金融関係者は憤る。

しかし、いつまでも安心はしていられない。基準ボーダー企業の中には収益性や資本効率が低く、アクティビストから狙われやすい企業が少なくないからだ。

10月末時点でプライム市場の基準に適合していない企業は271社。2023年の株主総会までに抜本的な解決策を提示して実行に移さなければ、学情のように、株主提案を受ける羽目になるかもしれない。

田島 靖久 東洋経済 記者

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たじま やすひさ / Yasuhisa Tajima

週刊東洋経済副編集長。大学卒業後、放送局に入社。記者として事件取材を担当後、出版社に入社。経済誌で流通、商社、銀行、不動産などを担当する傍ら特集制作に携わる。2020年11月に東洋経済新報社に入社、週刊東洋経済副編集長、報道部長を経て23年4月から現職。

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