20万円で買った古民家に住む男「自給自足」の現実 お金にも文明にも頼らず生きるとはどういうことか

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家屋とは本来、代謝循環するという意味で生き物と同じだ。屋根の茅は10年ほどで葺替え、障子は毎年貼りなおし、土壁は傷んだところを塗りなおし、土間も日々水をまいて踏み固める。それら家をなす材料は周辺の山から調達される。

だが、百之助に最後に住んだ老人は、材を山から調達し、修繕するには歳を取り過ぎていた。崩れた壁には新聞紙が貼られ、その上から、3ミリ厚の合板で壁全体が覆われていた。壁の修繕に使われた新聞には昭和44年とある。トップ記事はアメリカ軍のベトナムからの撤退開始時期についてだった。

カマドウマが跳ねる床をきれいにする

茅葺き屋根にはトタンをかぶせてある。茅の葺き替えが難しくなった現代で、よくおこなわれる屋根の処理法である。知り合いの茅葺き職人に、もし葺き替えるとしたらいくらになるのか聞いてみると、500万円くらいと返ってきた。20万円で購入にした家の屋根の葺き替えに500万円出すことはできないので、屋根は当分トタンのままにする。古くなった茅葺き屋根は、内側から少しずつ二階に崩れ落ちているが、屋内で火を焚いて、いぶすことで、いくらか収まるらしい。

服部文祥さんが購入した古民家
崩れ落ちてくる茅をよしずで防ぐ

玄関の戸はアルミサッシが入っていたが、ガラスが一枚完全に割れて、戸になっていない。板を立てかけて塞いであるが、隙間から鹿が出入りし、土間には糞が落ちていた。とりあえず割れていたガラス部分に合板をきっちりはめ込んだ。

1階の2部屋にざっとホウキをかけ、ぞうきんで水拭きするが、波打った畳は拭いても拭いてもぞうきんが真っ黒になってしまう。台所にはネズミのパーティのあと。掃除中もカマドウマが飛び跳ねていく。

大掃除の末、なんとか、床、屋根、壁、窓、玄関によって、外界とは仕切られた閉鎖空間ができあがった。屋内はまだゴミだらけだが、一人が寝転がるスペースはある。

出入りし始めた当初は、庭で焚き火をして炊事していたが、その後、時計型の薪ストーブを土間に設置した。

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