「ウィルスって最強じゃん!」から始まった グローバルヘルスについて考えよう

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その中でも最も大きな衝撃だったのは、保健医療課題というのは、医者や看護師、理系研究者などの専門家だけで解決できることではない、ということでした。ロンドン大学の衛生熱帯医学大学院では、その名称に反して、同級生には社会学や人類学、メディアや政府関係者など、あまりにも多様な人たちが一緒になって保健医療課題について考えていたからです。その中で、物事を一歩引いて観ることの大切さ、ということに気付かされます。

たとえば、それまでのわたしはマウスとの共同生活が研究だと思っていましたが、見方を変えると研究と一口に言っても、全然違うということに気付かされました。

1つは、下痢という病気を下痢の原因である細菌やウイルス、寄生虫を拡大してしっかり見る基礎研究の領域。

もう1つは、下痢の患者さんを前にして、その患者さんと細菌との関係をみる臨床研究の領域。

そして最後が、私がはじめて出会った、集団を対象として下痢の発生頻度や分布などをみる公衆衛生(パブリックヘルス)やグローバルヘルス的な研究です。

たくさんの命を救いたい!

個々を詳しくみることはできないけれど、全体を見渡すことができる。それまで顕微鏡を覗いてばかりいて、その外の世界を見たことがなかったわたしにとっては、広角レンズの存在を初めて知ったようなものでした。

それまで細菌のレベルで捉えていたものが、人口レベルや国・地域レベルで捉えることができるようになると、そのレベルに応じた解決策を見出していくことができるようになります。この考えがあれば、下痢で亡くなっている多くの人を救えるかもしれない。

この考え方との出会いが私の方向性を決めました。

細菌だけに向き合うのではなく、たくさんの命を救いたい!

これが、ロンドン大学大学院とわたしとグローバルヘルスの最初の出会いでした。

世界を別の角度で見てみると、今まで見えてこなかったことがたくさん見えてきます。

この連載では、わたしが世界で見つけてきた、たくさんの目からウロコのグローバルヘルスのお話をお届けしたいと思います。

金森 サヤ子 大阪大学 特任講師

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かなもり さやこ / Sayako Kanamori

2017年4月より、大阪大学 未来戦略機構第一部門 超域イノベーション博士課程プログラム 特任講師。2009年に外務省 国際協力局 多国間協力課に入省、地球規模課題総括課を経て、国際保健政策室 事務官。国際保健外交政策の立案や戦略策定に従事。その後、一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチ(JIGH)調査事業本部長としてポリオ根絶活動をリードしたほか、医療の海外展開に従事。2002年に筑波大学第二学群生物学類卒業後、ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院にて医学寄生虫学修士号取得。ビジネスコンサルタントを経て、2009年に東京大学医学系研究科国際地域保健学教室にて保健学博士号を取得。専門はグローバルヘルス、保健政策学、保健外交、ヘルス・プロモーションなど。

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