なぜ日本のイスラム教徒が辛い目にあうのか 日本国内のイスラム教徒から深刻な訴え

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イスラム教徒への差別や嫌がらせについて語る日本在住のイスラム教徒(左端が前野直樹さん)

サラリーマンをしながら、イスラム教を勉強した知識人として「イスラミックサークルオブジャパン日本人部代表」という肩書きで活動している。モスクでも時々、説教をする立場でもある。

学生時代にオーストラリアに留学した際に、「神の前では差別がない」というイスラム教に感銘を受け、次第にこの無差別で平和的な宗教に引かれていったという。

「たかが呼び方」が差別につながる

前野さんも、日本のマスコミが「イスラム国」という呼び方を使い続けていることが、一般の人には見えにくい差別や嫌がらせにつながっていると言う。

「たとえば、欧米のメディアが日本のオウム真理教の事件について報道する時に、『日本の仏教の宗派の1つ』という紹介の仕方なら、多くの日本人がそれは違うと烈火のごとく怒ると思います。しかしながら『イスラム国』という名称で報道することで、多くの日本人に『イスラム教徒=イスラム国=残忍で恐い存在』という誤ったイメージを広げることになっています。それは『日本の仏教徒=オウム真理教信者=恐い』と伝えていることと、どこが違うのでしょうか」

確かに、日本人の多数派である仏教徒とオウムが欧米メディアなどに混同されたら、「おいおい、冗談じゃないよ」と思うのが大多数の日本人だろう。極端なありえない例えだと思うかもしれない。

他方で、今回、日本で起きていることは、「イスラム国」という、イスラム教を代弁しているような名称を使いながら、実態としては武力による実行支配を拡大している過激派組織を「イスラム教徒」全体と混同する事態だ。真っ当なイスラム教徒からすれば、まさに「おいおい冗談じゃないよ」という状況だろう。

たかが呼び方の問題と思うかもしれない。でも、呼び方によって、誤解や差別などが広がっている実態があるなら、それを改める勇気を持つべきではないか。それで傷つく人たちが少なくなるなら、躊躇すべき理由はない。

NHKが途中から呼び方を変えたように、ほかのメディアも早く気づいてほしい。「イスラム国」という言葉が誰かを傷つけることにつながっているかもしれないことを。 

自分たちは日本人や日本の社会がずっと好きだったのに、あの事件以降、いったいどうなったんだろうと戸惑う声が多かった。それがメディアの配慮で解消されるなら、各テレビ局、新聞社、雑誌社などは迅速に改善に動くべきだ。

水島 宏明 上智大学文学部教授

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みずしま ひろあき / Hiroaki Mizushima

1957年生まれ。東京大学卒業。札幌テレビ放送入社。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレク ターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授、2018年から現職。

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