通用しなくなった旧来の情報流通の常識--『キュレーションの時代』を書いた佐々木俊尚氏(ITジャーナリスト)に聞く

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 ちょっとカタカナが多すぎるかもしれないが、無理に日本語にするより、新語として意味をきちんと説明して使ったほうがわかってもらえると思っている。

──キュレーションはジャーナリズムも変え始めました。

1次情報は世界にあふれるようになった。そうなると、得た1次情報を仕分けするほうが大事になる。今や、ツイッターやユーストリーム、ユーチューブなどによって、現場の生の声や映像がどんどん流れてくる。もはや見切れないし、読み切れない。

実際、エジプト政変の最中に、まさにキュレーションをする米国のジャーナリストがいっぱいいた。カイロに記者を送れない日本のマスメディアがローマから報告しているよりも、よほど生々しい話が仕入れられる。もちろん、従来のジャーナリズムの価値がなくなるわけではない。取材を積み上げ、権力を監視し、調査報道するという役割は重要だ。ジャーナリズムの定義そのものを拡大すればよい。

──マーケティングも変化してきています。

広告業界の先端の人たちとは、劇的な変化で理解が共通している。中でも、クライアントのブランドマネジャーの人たちは先行している。広告のマーティングといえば、今まではまず枠ありきだった。新聞・雑誌やテレビの枠を確保して、それをクライアントになるべく高く売る。こういう枠の販売業者にはまったく意味がなくなりつつある。

むしろここで究極の課題が鮮明に出る。情報を求める人がどこにいて、そこにどうやって情報を放り込み、感銘を受けてもらうか。導線をいろいろ考えて、それぞれに予算を細かく投下していく。ポートフォリオを組むような形で戦略的に情報を投げ込むやり方だ。コンサルタント的な発想が大事になる。

──インターネットの世界では傍観者になれません。

ソーシャルメディアでは、取材する側もされる側も、当事者化されていく。ともにWebにアップできるからだ。その分、自分が実感したことを書かないと、説得力を持ちえないことにもなる。

(聞き手:塚田紀史 =週刊東洋経済2011年3月19日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

ささき・としなお
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政経学部政治学科を中退し、毎日新聞記者。99年アスキーに移籍し、『月刊アスキー』編集部デスク。2003年退職して、フリージャーナリストに。主にIT・ネット分野を精力的に取材、執筆。総務省情報通信タスクフォース委員。著書に『電子書籍の衝撃』ほか。

『キュレーションの時代』 ちくま新書 945円 311ページ

  

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