イエレン議長と黒田総裁の決定的な違いとは 日米の「金融政策決定会合」からわかること

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現実的に言えば、中央銀行とメディアおよび社会の間に相互の信頼、お互いに対する敬意がないために、チームとしてうまくいかない可能性があるということだ。米国は、その意味で一体である。多くの庶民は置き去りであるが、エリート同士に一体感があり、国を動かし、作り上げていくという暗黙のコンセンサスがある。

日本にはそれがない。攻撃すること、揚げ足を取ること、壊すことしか関心がない。その中で、政策責任を持つ側は、かなり難しい運営を迫られるが、それでも誠意を持って、いわば自然の摂理に対して、あるいは神に対して、敬意を持って真摯に政策を打ち出し続けるしかない。

イエレン議長と黒田総裁の発言の読み方とは?

市場との関係で言えば、米国市場の投資家はFEDを畏れている。一方、日本市場の投資家は、バズーカ、具体的な金融政策の変化を怖がっている。この本質的な違いが、中央銀行側が、政策においてリーダーシップを持てるか持てないかの違いをもたらしている。

米国FEDは、今後、淡々と、しかし真摯に、経済状況を分析し、金利を引き上げていくだろう。イエレンが繰り返し言っているように、今回で、忍耐強く、という注目のフレーズは外されたが、これが即座に金利引き上げを意味するのではない。

中期的な金利の見通しが引き下げられたが、これが、最初の金利引き上げ、つまり、正常化、ゼロ金利解除という大きな第一歩のタイミングを変えたことを意味しない。あくまで、今後は、経済の状況を見据えて、そのときの経済を判断して、ゼロ金利解除をするだけのことだ。

彼女はさらに具体的に、4月はない、と声明文に書き、6月を排除しない、と記者会見で語った。それはまさに、そのまま敬意を持って素直に受け入れるのが正しい。

一方、黒田総裁の会見は、信頼感がないから、殺伐とし、その結果、情報的にもfruitfulではないように見える。だが、やはり、黒田氏の言葉もそのまま受け止めるのが正しい。原油は関係ない。インフレ率がマイナスになろうとも関係ない。インフレ期待、言い換えれば、市場の雰囲気、世の中の雰囲気が大きく変化しなければ、さらに動くことはない、ということだ。

しかし、これは投資家が、自分にとって都合が悪いから受け入れないということがあると同時に、世の中としても理解することを拒否するだろう。わかろうとしない、耳を開かないだろう。

直接的には、この悪影響は、官邸が黒田氏の言葉を素直に受け入れない、官邸が、いわば思惑がありすぎるからなのではあるが、結果として、一方的に疑心暗鬼になり、金融政策の運営を難しくしていくことになろう。それは、結果的には、官邸の首を絞めることになるだろう。

日本の金融政策の選択肢は、これにより、時間を追うごとに、毎回の黒田総裁の政策決定後の記者会見ごとに、幅が狭くなっていくだろう。一方、イエレンは、慎重に、しかし、徐々に自由に、選択肢を広げ、羽ばたいていくだろう。

日米の金融政策は、方向感が違うだけでなく、本質的な深層における違いが存在するのである。
 

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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