松下幸之助は、若造の意見にも素直だった 「きみの言うとおりや」と柔軟に方針転換

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何回かの議論の結果、まず、教育についての提言をすべしとなった。そして、何回かの議論、ヒアリングをして、『学校教育活性化のための7つの提言』としてまとめた。

 
1.学校の設立を容易にして、多様化すること
2.通学区域を大幅に緩和すること
3.意欲ある人を先生にすること
4.学年制や教育内容、教育方法を弾力化すること
5.現行の学制を再検討すること
6.偏差値偏重を是正すること
7.規範教育を徹底すること
 

この提案を、単行本にするだけでなく、新聞に一面の提言広告を出そうということになった。もちろん、出席していた松下も同意した。

腹を立てる私に……

そこで、新聞掲載用の原稿をまとめ、各先生の同意を得て、いよいよ掲載というところまでなった。ところが、松下から呼び出され、行くと、「きみ、あの広告はやめよう」と言う。それまで、何度も松下に確認していただけに、「どういうことですか」と思いがけずの中止指示に腹立たしく、尋ねた。「いや、まあ、反対する者がいてな。無理せんでおこう」と言う。

「いや、そんなことは、はじめから申し上げていたし、それでもやろう、と言われたではないですか。国家国民を考える、そう言っておられたではないですか。その思いはどこに捨てられたのですか」

私は、憤然として、席を立ち、帰宅した。帰宅して、1時間ほどした夜10時頃、電話が鳴った。受話器をとると、松下からであった。

「先ほどは、申し訳ありませんでした」というと、松下が、

「いやいや、あれから、考えたんやけど、きみの言うことのほうが正しいわ。わしが悪かった。あの提言広告、誰が何と言おうとやろ。きみ、進めてくれや」

しんと静まり返った部屋で、私は、言葉が出なかった。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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