真のグローバルリーダーに求められるもの 多くの日本のリーダーは勘違いをしている

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(撮影:梅谷秀司)

葛西:私は新入社員に対して「ワーク・イズ・ライフ」、すなわち「仕事を人生の目的とせよ」と言っています。JR東海という会社に入ってきた社員は、国家の重要な大動脈を担っている会社に入ってきたわけです。ここで自分の能力を最大限に発揮して、自分の国の経済、インフラにいかに貢献するかということを、自己目的としなければならないわけです。そうしなければ、人生の大部分が「労働」と名付けられた灰色の時間になってしまう、そうなってはいけない、と話をするのです。

要するに働くこと、会社のためになること、お国のためになること、それが自分の人生の達成感なんだと思ってほしい、と。そういうふうに思うと、すべての時間がバラ色になるということです。

山折:きわめて大切なことだと思います。

リーダーになる人間とは

葛西:リーダーになる人間というのは、まさに自己犠牲の精神が必要なのです。これはアメリカ人だってそうですよ。アメリカ人であればアメリカ合衆国の利益のため、かもしれません。あるいは理想のため、かもしれません。そのために命をささげるんだというふうに、やっぱり教えられているのです。

戦後、政治家も含めて国民という言葉を嫌い、市民という言葉を使う人がいます。しかし生活体験の中でいちばん身近なものは、自分であり、自分の家族である。それと同じように、国際社会における行動単位は、国民国家です。国民国家というものに対して、自分はどうかかわっていくのかというところを、まったく教えなくなったということが、山折先生が言われた戦前戦後の差のいちばん顕著な点だと思います。

昔の修身の教科書には、いろいろなエピソードが書いてある。あのエピソードの中には、そういうものが含まれていた。それは全部束ねていくと、家族であり、隣人であり、国家というものに、自分はどのように貢献していくかと、自己犠牲を払っていくかということだったはずです。世界中は今、そうなっていると思うんですけれども、日本はそうではない。

山折:市民、国民という言葉の混乱はよくわかります。イギリスのダイアナ妃が亡くなったときに、それを追悼する動きが全世界的に広がった。あのときに、イギリスの首相はダイアナのことを「The people's princess」と表現しました。日本のメディアがその「The people's princess」をどう訳すか。これは面白かった。私が調べたら「市民、国民、人民、人々」バラバラです。ああ、日本人の自己アイデンティティーが定まってないんだなと思いました。

葛西:なるほど。

山折:いろいろな面で揺れている時代です。「イスラム国」の問題についても、日本国家としてどうするのか。あるいは人類としてどうするのか、という発想が必要になると思います。

それからもう1つ、リーダーに必要な資質は、私はかねてから禁欲の精神だと思っています。これは人間が野生化することに対する、歯止めの思想でもあります。そしてリーダーであるなら、さらにいっそう禁欲的でなければなりません。しかし、戦後の自由というのは人間の欲望を解放することだった。これが重要な究極の目標だったので、禁欲を嫌う風潮がまん延するようになりました。

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