キンプリ脱退問題と「悪い円安」は無関係ではない 一定の内需が海外進出の機運を低下させた

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海外進出の準備や覚悟で出遅れた日本企業は、先見の明がなかったのだろうか。否、ここまで急速な円安の発生を日本企業が予想することは難しかっただろう。また、海外市場開拓の重要性をわかっていても変われなかった可能性も十分ある。日本企業が努力を怠ってきたと決めつけることはできない。

再びキンプリに話を戻すと、西条氏はジャニーズ事務所の創業者ジャニー喜多川さん(故人)にとって「アメリカでの挑戦は悲願」でもあったと述べている。例えば、「ジャニーさんは、初代ジャニーズ(1962~67年)をアメリカに連れて行き、ゴールデンタイムのテレビ番組への出演を実現させようとしたり、レコーディングを行ったりしました」という。

つまり、興味深いことに、少なくともジャニーズアイドルは海外市場を意識していたのである。「(キンプリの平野さんも)海外進出というジャニーさんの夢を実現したかったのでしょう」と西条氏は分析している。

したがって、キンプリが海外進出の難しさを感じるに至ったのは、ジャニーズ事務所が海外市場の重要性を見誤ったり本人たちの危機感が足りなかったりしたためではないと考えられる。「なるべくしてなった」と言ったほうがいいだろう。韓国との比較でいえば、やはりある程度の規模を持った「内需」の存在が、このような環境を作り出したと考えることが妥当である。

内需に過剰な期待を持たせたアベノミクス

日本企業全般についても同様だろう。それぞれが最適な行動をしてきた結果、「悪い円安」の環境に「なるべくしてなった」という面が多分にあるのではないか。

原因があるとすれば、「内需は拡大可能だ」という過大なメッセージを出し続けてきた人口政策(将来人口目標1億人の国家目標)、いつの間にか「成長戦略シナリオ」をメインシナリオに据えるようになった内閣府の中長期推計、アベノミクスが掲げた名目GDP(国内総生産)600兆円目標あたりだと、筆者は考えている。

アベノミクスや異次元緩和による円安誘導が、むしろ日本企業の競争力を低下させたという指摘も一理あるだろう。

いずれにせよ、キンプリのメンバー脱退問題は「悪い円安」と無関係ではなさそうである。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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