マレーシア人監督「日本映画」に思う"海外との差" 日本の会社に就職し、中国で映画作りを学んだ

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そうでないと、映画というお金がかかる娯楽に手を出せない。自主映画もあるけれども数は非常に少ないです。特に、マレーシアは教育が完全に浸透しているわけではないので、文化的にも金銭的にも格差があります。

一方で、日本はあらゆる階層の人が映画を撮っていて、自主映画がたくさんあります。明治維新の後に全国統一の教育制度がスタートしているので、非識学者もいないし、教育水準が高い。

にもかかわらず、助成金のパイは少なく、小さい映画には回っていない。あまり報道されていませんが、日本の映画監督が世界で一番経済的に苦しいのではないでしょうか。

お金はないのに数多くの人たちが数多くの映画を作っている。マレーシアで生まれ育った僕にとってそれは不思議なことなのですが、この映画でそういうことも知ってほしかったんです。

――リム監督はどのようにして映画製作の資金を集めているのでしょうか。

今回、初めて助成金を得て作りましたが、今までは、映画業界に関係のない人にスポンサーになってもらっていました。

映画業界の人は作品を作ることで生計を成り立たせているので「ヒットしない」と判断されるとお金を出してもらえません。

映画業界に関係のない人たちは、映画の趣旨に賛同してくださればお金を出してくれます。自分が今までできなかったことを「映画を通してやりたい」と思って出資してくださるケースもあります。

90年代の渋谷は映画の大学

――ミニシアター文化についてどのように感じていますか。

僕が東京でサラリーマンをしていた90年代後半にはミニシアター文化がありました。渋谷はミニシアターの聖地だったんです。アップリンク、シネマライズなど古いものも新しいものもたくさんの映画を見ました。それで映画の教養を身に付けたと思います。主流以外の映画を知る大切な場でした。今振り返ると中国まで行って映画の大学院に入る必要はなかったとも感じます。

当時の東京は僕にとって、映画の大学でした。世界中の映画を勉強しましたね。

――映画の鑑賞環境は東京にいたときと中国や香港を比べるとどちらが良かったでしょうか。

それは絶対に東京です。中国や香港は圧倒的に大手の映画が主流です。一応、ミニシアターはあります。アートハウスという呼び方をしますが、中国ではほとんどなくなってしまいました。香港はゼロです。小さな映画はシネコン(シネマコンプレックス)で上映されています。

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